第121話〜
□第123話
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今日も無理矢理に仕事を終えて、自宅へと帰る。
寮長として泊まりでの仕事も必要なのだが、山田先生が気を使ってくれて代わりに当直をしてくれている。
本当に周りの人達には迷惑をかけてばかりだ。
だがみんな、美晴が快復するのが一番だからと口を揃えたように言う。
人の価値とはこういうときに現れると私は思う。
何かがあった時に、どれだけの人が尽くしてくれるか。
それはいかに普段からその人が周囲に尽くし、信頼されているかの証だ。
美晴はそれだけ周囲に尽くし、愛されていたのだろう。
「あ、お帰り千冬お姉ちゃん」
「どうも、千冬さん」
美晴の出迎えを受けると、五反田もその後ろから着いてきた。
「僕まだご飯の用意があるから、上着はその辺に置いておいて」
美晴はキッチンに戻っていった。
「あぁ」
「千冬さん」
もはや恒例になった五反田からの報告。
今日は何が起きたのだろうか。
五反田の口から出てきたのは衝撃の一言だった。
「美晴は今日クラスの女子から告白されました」
まさかであり、また一番恐れていたことだった。
美晴の性格を考えれば、どこに行こうと人に好意を持たれる。それは予想できていた。
かといって家に縛り付けておくわけにはいかない。苦肉の策だったが、裏目に出ただろうか。
「なに? それで……」
「断りました」
そうか……。よかった。
「美晴は、大切な誰かに何度も呼ばれた、だから断ったと言っていました。まだぼんやりのようですが、確実に思い出してきています」
大切な誰かに、か。私達のことを指してくれていると信じよう。
最初から比べればずいぶんと進んだな。
「無理矢理にでも思い出させたいですが、医者もやめた方がいいと言ってたんでしょう?」
「あぁ」
先日急な頭痛に襲われたことを受けて、医者に改めて見せたところ、思い出しかけてきて負担が大きくなり始めたから、治療行為以外での無理矢理は絶対にやめてくれと釘を刺されている。
「きっと近い内に思い出しますよ」
だといいが……。
「二人とも。ご飯出来たよ」
「おう。今行くな。ほら千冬さん。もう少し明るくしないと美晴が不審に思いますよ」
そんな顔をしていたのか。つい辛い気持ちが顔に出たか。
「「「いただきます」」」
棚の上にある、この前まで倒れていたフォトフレームが立てられているのを眺めながら食事をとった。
――七月七日。七夕。
今日はどうしても仕事が終わらず、仕方なく学園に泊まることになった。
一年が臨海学校に行くために、私も色々と仕事が増えてしまう。