泣いた白鬼

□第七訓
1ページ/11ページ

 





「…ぅ…総ご……ぉう悟…。……総悟!!」

「…んだよ母ちゃん、今日は日曜だぜ。
全くおっちょこちょいなんだから…」

「〜〜っ確かにそうだけどォ!!
今は仕事中だァァァァア!!」



土方さんの怒号に、俺はやれやれとばかりに身体を起こした。











旦那に教えられた部屋に張る事、一時間。
動きを見せない隣の部屋に飽き飽きして眠ろうとすると、その度土方さんが俺を小声で怒ってきて、碌に眠れやしない。


くぁっと大きく口を開けて欠伸をすると、俺はぼんやりと前を見る。




強い酒を呑んだ所為で、少し重く感じる頭を抱えて、俺は近くに置かれた水に手を伸ばした。

ゴクリと喉を鳴らして飲んでいくと、冷たい水が喉を伝って胃に入っていくのが判るような気がする。



空になったカップを静かに盆に乗せて一息つくと、俺は土方さんを盗み見た。






胡座を掻いた足元に置かれた灰皿には、吸い殻が山積みになっている。
土方さんがこうやって沢山の煙草を吸う時は、必ず苛立っている時だ。




…さて。

もう、限界だな。






限界なのは、土方さんの体調でなく、俺の堪忍袋。

ずっと気になっていた今日の土方さんの態度は、未だに理由が判らない。
一応、なけなしの気を使って、気付いてないフリをしていたが、もう良いだろう。



俺は徐に土方さんに近付いていき、銜えている煙草を奪うと、灰皿に押し付けた。




「あっ何しやがる!!」

「…もうそろそろ、苛ついてる理由を教えてくれやせんか。
こっちまで気分が悪くなりまさァ」

「…………!!」




俺の言葉に、土方さんは目を瞬かせ、そしてフッと自嘲じみた笑みを浮かべた。




「……気付いてたのか」

「何年の付き合いだと思ってるんですかィ。
分かりやすよ。…正直、気持ち悪ぃけど」

「…一言余計だっつの」



土方さんは、口に残っていた紫煙をため息と共に吐き出した。

座ったまま、ズリッと畳を擦るように土方さんは身体を俺に向ける。
だが、俺の方を向いたは良いが、ガシガシと自分の頭を掻いているだけで何も言わない。



痺れを切らした俺が、一言言おうとした時土方さんは俺の目を真っ直ぐに見た。








□ 第七訓

【ヒーローは遅れてやって来る】

◆沖田視点


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ