泣いた白鬼
□第七訓
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「…ぅ…総ご……ぉう悟…。……総悟!!」
「…んだよ母ちゃん、今日は日曜だぜ。
全くおっちょこちょいなんだから…」
「〜〜っ確かにそうだけどォ!!
今は仕事中だァァァァア!!」
土方さんの怒号に、俺はやれやれとばかりに身体を起こした。
旦那に教えられた部屋に張る事、一時間。
動きを見せない隣の部屋に飽き飽きして眠ろうとすると、その度土方さんが俺を小声で怒ってきて、碌に眠れやしない。
くぁっと大きく口を開けて欠伸をすると、俺はぼんやりと前を見る。
強い酒を呑んだ所為で、少し重く感じる頭を抱えて、俺は近くに置かれた水に手を伸ばした。
ゴクリと喉を鳴らして飲んでいくと、冷たい水が喉を伝って胃に入っていくのが判るような気がする。
空になったカップを静かに盆に乗せて一息つくと、俺は土方さんを盗み見た。
胡座を掻いた足元に置かれた灰皿には、吸い殻が山積みになっている。
土方さんがこうやって沢山の煙草を吸う時は、必ず苛立っている時だ。
…さて。
もう、限界だな。
限界なのは、土方さんの体調でなく、俺の堪忍袋。
ずっと気になっていた今日の土方さんの態度は、未だに理由が判らない。
一応、なけなしの気を使って、気付いてないフリをしていたが、もう良いだろう。
俺は徐に土方さんに近付いていき、銜えている煙草を奪うと、灰皿に押し付けた。
「あっ何しやがる!!」
「…もうそろそろ、苛ついてる理由を教えてくれやせんか。
こっちまで気分が悪くなりまさァ」
「…………!!」
俺の言葉に、土方さんは目を瞬かせ、そしてフッと自嘲じみた笑みを浮かべた。
「……気付いてたのか」
「何年の付き合いだと思ってるんですかィ。
分かりやすよ。…正直、気持ち悪ぃけど」
「…一言余計だっつの」
土方さんは、口に残っていた紫煙をため息と共に吐き出した。
座ったまま、ズリッと畳を擦るように土方さんは身体を俺に向ける。
だが、俺の方を向いたは良いが、ガシガシと自分の頭を掻いているだけで何も言わない。
痺れを切らした俺が、一言言おうとした時土方さんは俺の目を真っ直ぐに見た。
□ 第七訓
【ヒーローは遅れてやって来る】
◆沖田視点