泣いた白鬼
□第八訓
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《ザァァーッ》
当てもなく、…ただ街のネオンから遠ざかるように走っていると、月明かりが消え、いつの間にか雨が降り出していた。
斬られた左腕は血が止まったものの、未だ上手く動かない。
普段、自分を美しく見せてくれるこの着物も、今は血と雨水を目一杯吸って、ただ動きにくく邪魔なものになっている。
唇に引いた紅は取れ、結い上げた髪は解け…もう悲惨な状態だ。
…本当、情けなくて、今の私にピッタリ。
ツーっと、雫が頬を伝った。
その雫が汗なのか雨なのか…涙なのか、私には判らない。
…ただ、明かりが遠くなる程、"闇の世界"に再び入っていく気がして、悲しい程に虚無感を感じていた。
跳ねる水飛沫に着物の裾を濡らしながら走っていると、ふと視界が明けて来る。
街灯すら避けていた所為か、妙に明るい。
無我夢中で光へ走る。
「あ……」
そこには、雨に打たれながら花びらを舞い散らせている、あまりに美しい桜並木があった。
□ 第八訓
【桜の花びらは意外に白い】
◆"蓮"視点