泣いた白鬼

□第八訓
1ページ/8ページ

 





《ザァァーッ》



当てもなく、…ただ街のネオンから遠ざかるように走っていると、月明かりが消え、いつの間にか雨が降り出していた。








斬られた左腕は血が止まったものの、未だ上手く動かない。


普段、自分を美しく見せてくれるこの着物も、今は血と雨水を目一杯吸って、ただ動きにくく邪魔なものになっている。
唇に引いた紅は取れ、結い上げた髪は解け…もう悲惨な状態だ。

…本当、情けなくて、今の私にピッタリ。












ツーっと、雫が頬を伝った。

その雫が汗なのか雨なのか…涙なのか、私には判らない。


…ただ、明かりが遠くなる程、"闇の世界"に再び入っていく気がして、悲しい程に虚無感を感じていた。
















跳ねる水飛沫に着物の裾を濡らしながら走っていると、ふと視界が明けて来る。

街灯すら避けていた所為か、妙に明るい。


無我夢中で光へ走る。
















「あ……」



そこには、雨に打たれながら花びらを舞い散らせている、あまりに美しい桜並木があった。








□ 第八訓

【桜の花びらは意外に白い】

◆"蓮"視点

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ