小説:オレンジ

□1章:入学と入部
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1:恐怖の夏休み


イチ、ニイ、サン、シイ――。

体育館に、響く、声。

ネット越しに、ダンス部が踊っているのが見える。

隣の第2体育館では、『メェーンッ』『ドォーアァッ』『テァァーッ』

一体どこから出してんだろ…っていう、剣道部員の声。

やかましいセミの声に紛れて、吹奏楽部。

夏とは無縁と思われる、ベートーヴェンのなんちゃら交響曲。


そんな中、思い出す。すっごい昔のことみたいで、つい昨日のことのような、4月の…出来事。




――…。

「……いいえ」

「じゃぁ、中学は」

「ソフトテニス部です」

一瞬、先輩が目を見開いた。

そりゃそうだ…いかにも爽やか乙女の部活、って感じだもん。

バスケとは、きっと正反対…。

でも先輩、あれはあれで、けっこうキツいです。

くそ暑い炎天下のなか、ずーっとラケット振ったり、ずーっとボール拾いしたり……。


「そ、そっか!じゃぁ、めいっ。これから頑張ろうね!」


そう言ってキャプテンは、残り20人のメンバーに私を紹介した。



――はぁ。

あのときのキャプテン、やっぱりカッコよかったなぁー。


あれから、もう3ヶ月も経ったんだよね……。


それなのに、私のプレーはちっとも変わらない。

シュートは入らないし、体力も、部で1番劣ってる。
生まれつき、どんくさくてトロい性格が、プレーに120パーセント影響してるって感じで。

だけど、やっぱりバスケ好きだから、辞めたいとは思わない。


もっともっと上手くなって、少しでも、7月に引退した3年生たちに近づけたらな〜なんてっ!

どうする!?来年の今頃、後輩に「メイさんかっこいー!」なんて言われたら!!
それでさ、「私もメイさんみたくなりたいです!」とかってさーっ!

……とかって。

とか、って。

……と、か……。



「……楽しそうだなァ?桜田」

「ひいっ!」

出た、ハンニャ。もしくはオニガワラ。

「昨日のツーメンでレイアップ3本落とし、100本シューティングにかかった時間はあたしの倍の48分、その上シャトルランは76回で早々ダウン……。にしては、随分いい度胸だなぁ、オイ」

……はい。今日はオニガワラの様です。

「ご、ごめんて!ちょっとホラ、想像してたわけ!こ、後輩がさ、ね?入ってきたときのことをさ……」
必死の言い訳。
でも、バスケに全く関係ないこと、でもないじゃん?
が……。

「後輩だ?お前、舐めてんのか……?」

「ひっ!?いえ全くそんなつもりはありませんスミマセンごめんなさい失礼しましたさようならまた明日っ!!」

「さっさとストレッチして始めろゴルァァーッ!!!!」
ひぃぃいぃい……。


「……あぁーあ。かなり気に入ってるよね〜」

「あぁ、あれはもうどーしようもないね。うん」

「しっかしミキも変わってんねー。入部してからずっとメイに付きっきりじゃん」

「頑張ってるのは凄く分かるんだけどねー」

「日進月歩、だな……」


――先輩、小声にするの忘れてません?


軽く落ち込む。
でも、気にしない気にしない!
日進月歩でしょ?ちょっとは上手くなってるってことだ!
うん、そうだ!!頑張れ自分!!



小学校の頃は、一応エースでキャプテンだった私。

地区の優秀選手にだって選ばれてた。

けれど、中学に入学したとき、バスケ部が廃部になると知って……。
仕方なく、ソフトテニス部に入った。

全校生徒250人。決して大きいとは言えない中学校に、あった部活は5つだけ。
ソフトテニス・卓球・吹奏楽・サッカーに野球。
卓球は難しそうだったし、吹奏楽部……は、楽譜読めない。

消去法でいったらテニス部しかなかった。

初めはね、バスケほど動かないスポーツに物足りなさを感じてた。

でも、スマッシュとか、ボレーとか。だんだん楽しくなってきて、テニスも結構良いなーって、思ってた。
大切な仲間も、出来たって、そう、思っていた……。
思っていたのに――。



「おぷッ!!」
「てめぇっ!どこ見て走ってんだ桜田ぁ!!」
「メイ、パスミートしっかり!」
「はっ!!す、すみませんっ!」
うぉぉ……。またやらかしたぞ自分。

 

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