magic of destiny
□第四章 9と3/4番線
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笑いを堪えているリディシアに、ハーマイオニーがふいに声をかけてきた。
「それで、貴女は?」
尋ねられ、リディシアは自分が彼女に名乗り出ていないことを思いだし慌てて微笑んだ。
「リディシア・マクレガンよ。はじめまして、ハーマイオニー・グレンジャーさん」
うまく笑えているだろうか。
別の意味で笑っていないと良い……。
と、リディシアがニコニコし続けると、ハーマイオニーは少しだけ息を飲み、肩をすくめて「そう」と呟いた。
「とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。あなた方も早く着替えた方がいいわ。もうすぐ着くはずだから」
そう言い残して、ハーマイオニーはさっさとハリーたちのコンパートメントを出ていった。
「どの寮でもいいけど、あの子のいないとこがいいな」
杖をトランクに投げ入れて、ロンが皮肉を含んでそう呟いた。
「君のお兄さんたちってどこの寮なの?」
尋ねるハリーに、ロンは嫌そうに表情を暗くして、少し落ち込んだ様子をみせる。
「グリフィンドールだよ。ママもパパもそうだった。もし僕がそうじゃなかったら、なんて言われるか……レイブンクローなら悪くないかもしれないけれど、スリザリンだったら……」
そう肩を落とすロンに、リディシアは笑った。
「大丈夫、あなたはグリフィンドールよ」
微笑むリディシアにロンが顔を赤らめて、けれど怪訝に視線を返す。
「そんなのわからないよ。式が始まらないと、寮は決まらないんだから」
「でも、きっとグリフィンドールだわ。ハリー、あなたもね」
意味ありげに笑って、リディシアはふと自分はどうだろうかと考えた。
頭の中にある記憶には、どこにも自分の姿はなかったのだから。
不思議そうにリディシアを見詰める二人に、誤魔化しのためにまた笑ってみせて、リディシアはこっそりため息をついた。
ハーマイオニーやロン、双子のことは夢で視たから知っている。
それが気味の悪いものに感じることもあるが、リディシアはそれ以上に気味が悪いものがあった。
それは、ハリーたちのことより、自分自身のことの方がわからないということだ。
リディシアは、自分が何者であるのかまだ思い出せていない。
こうして人脈を作っていても、どうしてだかこの空間に自分が存在しないかのような不思議な感覚を憶えている。
それが無性に気味が悪くて、ふと思いだしてはため息を飲み込んだ。
ロンがハリーに日刊預言者新聞の話をして、クィディッチの話に変わり、最新の箒について語りだした頃、ふいにまたコンパートメントの戸が開かれた。
良く開く戸だな。
と眉をしかめたリディシアの前に、三人の男の子が立っていた。
まん中の男の子を見るなりリディシアは「あ」と溢す。
マダム・マルキンの洋装店にいた青白い顔の男の子だった。
「このコンパートメントにハリー・ポッターがいるってほんとかい?」
真っ直ぐハリーを見詰め、男の子はそう尋ねた。
リディシアが何か言おうかと口を開く前に、ハリーは彼に答えていた。
「そうだよ」
言って、彼の両脇にたっているガッチリとした体格の二人を見やるハリー。
視線に気付いた青白い顔の男の子は、肩をすくめて無造作に視線に返した。
「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイル。そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
突然ロンがクスクス笑いを誤魔化すように咳払いをして、リディシアは眉間にシワを寄せた。
当然マルフォイは気分を悪くしたようで、ロンに冷たい視線を向ける。
「君が誰だか聞く必要もないね。ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほど沢山こどもがいるって聞いたからね」
皮肉混じりの嘲笑めいた言い方に、リディシアは思わずムッとした。
「ちょっと」
口が悪いわよ……と、反論しようとしたリディシアだったが、マルフォイの冷ややかな声に遮られてしまった。
「ポッター君。そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかると思うよ。間違ったのとは付き合わないことだね。僕が教えてあげよう」
なんて言って握手を求めたマルフォイだが、ハリーはそれに応えなかった。
「それは僕が自分でも出来ると思うよ。どうもご親切さま」
冷たく言い捨てて、言われたマルフォイは青白い顔をほんのりピンクに染めた。
怒りに赤くなったのだろうか。
とか考えていたリディシアをよそに、マルフォイは憤慨を隠すように冷たい言葉を返した。