magic of destiny

□第四章 9と3/4番線
6ページ/7ページ




「もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ。君の両親も何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリーやハグリットみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」


一気に吐き捨てて、マルフォイはロンに軽蔑の目を向けた。


ロンもハリーも立ち上がり、ロンは顔を真っ赤に染めている。


これにはリディシアも、これ以上黙ってはおられずに、怒っている友人二人を前にひとり微笑んでみせた。


「ドラコ・マルフォイさん」


甘ったるい、それでいて底冷えがするほどに冷めた声がコンパートメントの中に静かに響いた。


「なんだ」


と、短く返事をしたマルフォイに、リディシアはこの上ないほどの笑顔を振り撒いた。


長い睫毛が頬に影をつくり、薄紅色の唇が柔らかい弧を描く。


息が詰まりそうなほど完璧な笑みを向けられて、マルフォイは文字通り息を詰まらせた。


けれど次に発せられたリディシアからの言葉は、怒りに赤くなっていたハリーやロンの顔が青ざめるほどに冷ややかなものだった。


「礼儀を知らないのはどなたかしら?人の気持ちも考えられないような人間に、他人を諭せるような価値が自分にはあると思っているのかしら?だとしたらそれは、大した思い込みなんじゃないかしら」


ニッコリと。


本当にニッコリと微笑むリディシアに、誰もが言葉を失った。


コンパートメント内の空気がキンと冷え込み、クラッブだかゴイルだかは少し震えているようにも見えた。


リディシアはちらりとマルフォイの顔を見やると、微笑みの質を変えてやる。


「話が済んだならどうぞご自分の席へ戻って。もうすぐ到着するみたいだから」


「……言われなくても」


マルフォイはクラッブとゴイルを顎で促し、リディシアたちの前から姿を消した。


立ち尽くしたままのロンとハリーに気付き、少し居た堪れない気持ちなる。


「……私、そんなに怖かった?」


尋ねると、ロンもハリーも小刻み頷き、腰を抜かしたように席に崩れ落ちた。


「君って案外、口達者だったんだね」


「僕、ママより怖い人に初めて会ったよ……」


なんて呟く二人に、リディシアは乾いた声で笑った。


「だって、あの子があんまりにも無神経だったから……」


ついカッとなったの。


と肩をすくめてみせれば、ロンとハリーは顔を見合わせて笑い合った。


リディシアが怒ったのが自分たちのためだとわかると、急に嬉しい気持ちが沸き上がる。


「でも、スッキリしたよリディシア」


「うん。追い払ってくれてありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


三人でクスクス笑い、散らかったお菓子を片付け始めた。


とそこで、またもコンパートメントの戸が開いた。


何故こうも来訪者が多いのかと怪訝に思いつつリディシアが入口を見れば、現れたのはハーマイオニーだった。


「いったい何やってたの?」


尋ねたハーマイオニーに、ロンは無視を決め込んだ。


あんな空気の中にあったにも関わらず眠り続けるスキャバーズのしっぽを掴み、ぶら下げるロン。


スキャバーズを膝の上に再び乗せ、マルフォイ一家についてハリーとリディシアに話して聞かせ、闇の陣営がどうたらと話し終わったところでようやくハーマイオニーを見た。


「何かご用?」


皮肉めいた声で尋ねたロンに、リディシアがスッと目を細めたのをハリーは見逃さなかった。


どうやらリディシアはいさかいが嫌いらしいと直感的に悟ったハリーは、自分は何も言わないことを決めた。


ハーマイオニーは気にした風もなく、けれど相変わらずのつっけんどんな口調でこう答える。


「三人とも急いで着替えた方がいいわ。私、運転手に聞いてきたんだけど、もうまもなく着くって。あなたたち、喧嘩してたんじゃないでしょうね?まだ着いてもいないうちから問題になるわよ」


マルフォイとの言い争いが彼女には聞こえていたのか、ハーマイオニーが釘を差すように指摘してきた。


リディシアはハリーとロンがまた不機嫌になるのを感じながら、今回の相手が女の子なだけに頭を悩ませる。


まさか女の子相手に啖呵を切るわけにもいかない。


ふむ……。


と考えているうちに、いつの間にかロンとハーマイオニーは火花を散らしていて、リディシアはさらに頭を悩ませた。


二人は犬猿の仲なのかもしれない。


と諦め、リディシアはハーマイオニーに手を振った。


「ご忠告ありがとうグレンジャーさん。もう着替えることにするわ」


苦笑に似た笑みを浮かべて、リディシアはロンとハリーを見る。





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ