虚空の歌姫

□#05.フレンズ
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集合場所へ着くと、眉間に深いシワを寄せたベベル・ファーガス中佐が四人を出迎えた。


「随分早いご到着だな」


低い声でそう言われ、リヴィアは表情を変えず、ジャックは「ゔっ」と身を引き、ゼスとリードはあっけらかんと笑って返した。


「ったく、お前らは……他の小隊員達はとっくに集まってるってのに、大した大物だよ」


嫌味たらしく皮肉を溢して、ベベル上官は四人にため息を吐く。


「遅刻はしていないはずですが……ベベル中佐?」


飄々と言ってのけ、リヴィアは立ち位置に着くと挑むように上官を見た。


これには周りの三人がヒヤヒヤし、そのまた周りも何事かと様子を伺い始める。


「っとにお前は、たまには余裕を持って来やがれってんだよ」


「早く来ても利益を感じられない。なら、時間通りが良いでしょう?」


「揺るぎないな」


「これも貴方の指導の賜物です、ベベル中佐」


呆れ顔の上官に、涼しい顔をして対応するリヴィア。


なんというか、とにかく彼女は物怖じしない性格らしい。


毎度のことながら、二人のやり取りにいまだに慣れない三人は、その光景を呆然と見ていた。


やがて上官、リーダー格の人間達が集まり、今後のバジュラによる襲撃への防戦や撃退作戦を立てる会議が行われた。


まだ軍すら交えていない軽い会議ではあったが、各々の表情には険しい色が浮かんでいる。


いつバジュラによって親しき仲間や家族が奪われるのかわからないのだから、仕方のないことではあるのだが……。


その中でリヴィアも例外ではなしに、作戦の内容を曇った表情を浮かべて聞いていた。


忘れていたかった音が、微かに頭の中に響いてきた気がして、胸の辺りが気持ち悪かった。


意志疎通の測れないバジュラ。


彼らがいったい何者なのか……考えたくもないが、考えなくてはならない。


ただ殲滅だけを繰り返すのもまた、胸に気持ち悪いから。


生きとし生けるもの全てには理由があるのだと、そう言っていだあの娘゙を思いだし、リヴィアは虚ろに宙を見詰めるのだった。




















「やあ、リヴィア」


会議が終わり、それぞれが自分の管理する機体のチェックをしている頃、ふいに後ろから声を掛けられた。


耳のよい彼女は、声を聞いただけで相手が誰なのかわかったが、足音がひとつだけじゃなかったことからゆっくりと振り向いた。


そこに居たのはスカルの隊員たちで、ここ最近やたら絡んでくる二人組だ。


そしてクラスメイトでもある、ミハエル・ブランとルカ・アンジェローニ。


何事かと視線を投げれば、ルカがにこやかに挨拶を溢した。


「こんにちはリヴィアさん。体調の方は、もう大丈夫なんですか?」


挨拶ついでに質問され、リヴィアは眉をひそめる。


「どこも悪かった覚えはないけど……まあ、大丈夫」


病院で検査を受けたのはバジュラ絡みだし、暴走したのは単純に気持ちの問題だ。


特に体調に問題はないと返し、再び機体のチェックに戻るリヴィア。


二人は顔を見合せ、瞬きを繰り返した。


どこか線を引かれているような雰囲気がバシバシで、ルカとミハエルは肩をすくめて眉根を下げる。


同僚達にはあんなに軽快に言葉を交わすというのに、この差はなんだ?


単純に、他人扱いされているに過ぎないのだが、それが少し寂しい。


いや、だいぶ寂しい。


「なんか、あまり好かれてないみたいですね、僕たち」


悲しげにそう溢すルカの声を、機能の良すぎるリヴィアの耳が勝手に捕らえる。


深い悲しみを帯びた彼の声量に、チェックをしていた彼女の手がピタリと止まった。


「………」


好きだとか、好きじゃないとか、そういう気持ちすらないのだが……なんだ?


この、子犬を苛めているような妙な気持ちは。


手に持っていたペンチを腰の道具袋に突っ込み、見るからにしょんぼりと落ち込んでいるルカに向き直る。


眉を上げたミハエルと、首を傾げてこちらを見上げてくるルカを交互に見据え、リヴィアは迷いながら唇を動かしていた。


「貴方達のことは、嫌いじゃない。ただ……まだ二人のことを私は良く知らないから、どう接したら良いかわからないだけ」


正直な気持ちを言えば、学校では決して絡んで欲しくない部類だが……嫌いじゃない。


ハッキリとそう告げたリヴィアに、ルカとミハエルの表情が一気に輝いた。


「なら、今度一緒に食事にでも行きませんか!? 僕、良い店を知ってるんです!」


「街へデート……いや、散歩とかどうだい? せっかく知り合えたんだ、親睦を深めたい」


ニコニコとそう提案してくる二人。


けれど、とたんにリヴィアは顔をしかめてしまった。


「すまない。その、人混みや騒がしいところはちょっと……」


良すぎる聴覚を思い、リヴィアは困ったように首を振る。





 
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