虚空の歌姫

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おかしそうに笑うリヴィアに、早乙女アルトもつられて笑った。


何だか、急に距離が縮まった気分だ。


「名前……リヴィアで良いのか?」


いつまでもアンタと呼んでいるのも悪い気がして、早乙女アルトはそう聞いた。


「ええ、そう呼んでくれて構わない。私も好きに呼ばせてもらっているから」


穏やかな笑みを浮かべ、夜の空を背景にそう言ったリヴィア。


早乙女アルトは一瞬ドキリと胸が早鐘を打ったのを感じ、戸惑った。


「早乙女……じゃなくて、名前で呼べよ」


気付いたらそんなことを言っていて、内心『何を言っているんだ俺は』と突っ込みたくなったが堪えた。


早乙女とか、貴方、としか自分を呼ばないリヴィアに、何かもどかしさを感じたからだ。


「名前……アルト?」


やや考えて、リヴィアが首を捻って彼の名を呼んだ。


また、鼓動が跳ねたのを感じながらアルトは頷く。


「俺だけ名前呼びで、リヴィアだけ名字呼びってなんか嫌だからな」


どんな言い訳だよと、また突っ込みたくなるがアルトは自分を抑え笑ってみせる。


リヴィアは何度か瞬きをして、ややあって小さく頷いた。


「わかった。そうする」


クスリと笑って、夜風を気持ち良さそうに浴びるリヴィア。


夜に浮かび上がる髪さえも綺麗に見えて、彼女の周りだけ異世界のよう。


と、急にリヴィアの表情が変わった。


「っ!見付けた……ッ」


聞こえるか聞こえないかくらいの声量でリヴィアが叫び、とたんに駆け出す。


「あ、おい!リヴィアっ!?」


突然走り出した彼女を追いかけ、アルトもまたその後ろを走った。


走っている途中、ふいに誰かの歌声が耳に飛び込んできて、アルトはその声にハッとする。


「……せめて最後に、もう一度抱きしめて欲しかったよ……―――」


「シェリル・ノーム!」


「え?」


「お姫様のパイロット!美人なお姉さん!!」


「はっ?」


様々な声が入り乱れる中、リヴィアはまっすぐにシェリル・ノームを見据え駆け抜けた。


目の前まで近付くなりシェリルの手を掴み、ぐいっと引き寄せる。


「探しました。シェリル・ノーム、一緒に安全な場所まで避難して下さい」


「な、貴女誰よ!」


いきなり腕を引っ張られ、見覚えもない人物の登場にシェリルは怒鳴った。


が、リヴィアは気にも止めず飄々と彼女に名乗る。


「S・M・Sアテナ小隊所属、リヴィア・アボットです。この場は危険ですから、私と一緒にただちに避難を……―――ちっ!!」


「はぁ!?舌打ち!?」


腕を引っ張りながら、リヴィアの表情がまた変わる。


眉間にシワを刻み、至極嫌そうにしかめっ面を浮かべ叫んだ。


「こっちへ!!」


アルトや喧し娘にも同じ場所へ来るよう促す。


が、シェリルがそれを許さなかった。


「嫌よ!私はコイツに話があってここまで来たのよ!? ちょっと離し……て……―――」


アルトを指差し、怒り任せにそう叫んだシェリル。


だが、辺りに大きな陰を作った来訪者に気付くと、目を見開き言葉を失った。


そんなシェリルの腕をさらに引き寄せ、リヴィアは逆に怒鳴った。


「貴女はアレに殺されたいのか!! 生きたいなら私に従って下さい!」


真っ赤な身体を空中に浮かばせ、こちらに向かって来たバジュラ。


喧し娘が悲鳴をあげ、アルトが苦々しく息を吐きその娘の腕を掴み走った。


リヴィアの導きのまま四人は走り、背後でS・M・Sの機体がバジュラに向かって飛んでいくのを尻目に、緊急避難用シェルターの前までやってきた。


迷わずプラスチックのケースを割り、床に取り付けられたボタンを押してシェルターを開く。


ガクガクと震えるシェリルと喧し娘を先に中へ詰め込み、アルトが入ったのを確認すると、扉を閉める為に入口に手を伸ばした。


「リヴィア!!お前も早く入るんだ!」


伸ばされたリヴィアの手を、何を勘違いしたのかアルトが捕まえ、勢いよく引っ張った。


前のめりになり、シェルターに崩れ落ちたリヴィア。


それをしっかりとアルトが抱き止め、シェルターの扉はひとりでに閉まっていった。


「……嘘でしょう……―――?」


閉じ込められた現実に、リヴィアは呆然と扉を見上げる。


これから戦闘に戻ろうと考えていただけに、信じられない現状だった。


「っもう!乱暴過ぎるわよっ!!」


キレるシェリルに、喧し娘が何か言った。


が、リヴィアの頭には警報音しか聞こえてはいなくて、ただただ立ち尽くし続けていた。





 
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