magic of destiny
□第五章 組分け帽子
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大きな扉は独りでに動きだし、新入生を招き入れるべくぱっかりと口を開けた。
開いた扉の向こうにエメラルド色のローブを着た、背の高い黒髪の魔女が立っているのを見付け、リディシアはとたんに顔を綻ばせる。
ハグリットが先に中へと入り、彼なりの精一杯で魔女に敬意を示し、新入生を引き連れてきたことを報告した。
「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」
「ご苦労様、ハグリット。ここからは私(わたくし)が預かりましょう」
厳格そうな受け答えをし、ミネルバが一歩こちらへ歩み出て新入生たちを中へと促した。
雪崩れ込むように中へと入っていく新入生たちに紛れ、リディシアも今朝方ぶりにホグワーツに戻る。
玄関ホールは相変わらず広く、夜という暗い時間のために、石壁を沢山の松明が照らし出していた。
どこまで続くかわからないほどに高い吹き抜けの天井と、正面にそびえる上へと伸びる大理石の階段。
新入生たちは、古いが趣のあるホグワーツの城内に感嘆の息を零した。
リディシアも改めてホグワーツの壮大さに見惚れ、ミネルバの案内に着いていきながら、ハリーたち同様に城内を見渡していた。
石畳のホールを横切り、入口の右手の方から聞こえる何百人ものざわめきを耳にとらえると、とたんにリディシアの胸が大きく波打った。
これから本当にホグワーツに入学するのかと思うと、緊張で少し足がすくむ。
ミネルバは一年生を小さな空き部屋に案内した。
窮屈な部屋に詰め込まれた生徒たちは、不安そうに辺りをキョロキョロしながら互いに寄り添って立った。
右隣にハリーとロン、左隣にハーマイオニーを見つけ、リディシアは少しだけ緊張をほぐす。
「ホグワーツ入学おめでとう」
緊張で大人しい一年生たちに、ミネルバがそう挨拶をした。
「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません」
寮の組分けはとても大事な儀式だと説明を続けるミネルバに、生徒たちは少しざわついた。
寮生はみな家族であり、自由時間は寮の談話室で過ごすようにと教えられる。
寮は、グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの四つがあって、そのそれぞれから偉大な魔女や魔法使いが卒業したと説明された。
寮が決まると、自身の行いがそのまま寮の得点や減点に繋がるとされていて、一人一人が寮にとって誇りとなるようにとミネルバは促した。
「学校側の準備ができたら戻って来ますから、静かに待っていてください」
ミネルバはそう言い残すと足早に部屋を出ていき、生徒たちはとたんに騒ぎ始める。
「いったいどうやって寮を決めるんだろう」
そう尋ねてくるハリーに、リディシアは肩をすくめて返し、ロンが険しい顔をした。
「試験のようなものだと思う。すごく痛いってフレッドが言ってたけど、きっと冗談だ」
強張った顔でそう言って、ロンはミネルバの消えた扉を見つめた。
リディシアは真相を知っていたが、答えを教えるとあとが面倒そうだと思い口をつぐむ。
組分け帽子はハリーとロンをグリフィンドールに導く。
左隣で、試験に出る呪文はなんだろうかと、早口でぶつぶつ呟くハーマイオニーも、ヒキガエルにしょっちゅう逃げられるというネビルもグリフィンドールだということを知っている。
だが、リディシア自身はどこの寮に入れられるのかわからない。
レイブンクローか、はたまたハッフルパフかスリザリンか……。
叶うなら、親しくなった友人たちと同じ寮に入れたら良いと願いながら、リディシアはミネルバが戻ってくるその時を待った。
けれどふいに、生徒たちの悲鳴が窮屈な部屋に響き渡った。
何事かと生徒たちが指をさす方向を見やれば、もう見慣れてしまったゴーストたちの姿が目に飛び込んできた。
壁からスッと抜け出てくる二十体のゴースト。
彼らは新入生になど目もくれず、各々で議論しながら部屋を横切っていく。
「もう許して忘れなされ。彼にもう一度だけチャンスを与えましょうぞ」
「修道士さん。ピーブスには、あいつにとって十分過ぎるくらいのチャンスをやったじゃないか……おや、君たち、ここで何してるんだい」
ひだがある襟のついた服を着て、随分古めかしい格好をしたゴーストが一年生たちの姿に気づき、急に声を掛けてきた。
が、おびえた生徒たちは誰一人として応答はしない。
そんな中で、修道士がふとリディシアに気付き声をあげた。
「なんだ、リディシアじゃないか。これから組分けされるところか?」
ダイレクトに声を掛けられ、リディシアは思わず頬をひきつらせる。
ここはスルーして欲しかった。