magic of destiny
□第七章 飛行訓練
1ページ/5ページ
―飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です―
談話室の掲示板に貼られたお知らせを見て、リディシアを除いたグリフィンドール一年生たちは、どんよりと空気を重くしていた。
「そらきた。お望みどおりだ。マルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるのさ」
吐き捨てるようなセリフを零して、ハリーの表情はさらに重く暗いものになった。
失望の色を浮かべるハリーに、ロンが肩をすくめて呟く。
「そうなるとはかぎらないよ。あいつ、クィディッチがうまいっていつも自慢してるけど、口先だけだよ」
もっともなロンの言葉に、ハリーが少し表情を緩める。
リディシアは箒がどんなものだかを考えていて、その会話には加わらなかった。
確か、塔の家代わりに使っていた部屋に、箒について書いてある著書がいくつかあったはず。
「リディシア?君もそう思うだろう?」
「へ?」
箒の乗り方をぼんやり考えていたリディシアの肩を、ロンがぶっきらぼうに叩いたことで現実に意識を戻された。
だが、リディシアは彼らの会話を聞いてなどいない。
罰が悪そうに肩をすくめて返し、リディシアは素直に謝る。
「ごめんなさい。考え事をしていて、話を聞いてなかったわ」
しゅんと項垂れるリディシアに、何故かロンの方が申し訳ない顔をして首を振った。
「あ、いや。うん、それなら良いんだ。ゴメン」
あまりにも普通に一緒に居るものだから、ロンは一瞬忘れかけていた。
リディシアがどんなに魅力的な女の子だったのかということを。
困ったような顔で、上目遣いで謝られて、ロンは胸がドキドキ騒ぐのを慌てて鎮めた。
掲示板から離れ、談話室のソファーに座った三人。
リディシアが読書でもしようかと、部屋から数冊持ってきていた本を開きページを捲ろうとした時だった。
ハーマイオニーの箒の乗り方についての講義が始まり、何となく耳を傾けてみる。
驚いたことに、ハーマイオニーは本の内容を全て暗記しているようで、リディシアの読んだことのある「クィディッチ今昔」の内容をすらすらと話して聞かせていた。
ネビルが必死でハーマイオニーの話を聞き、他はうんざりした様子だ。
朝食の時間が近付き、リディシアは本を読むのを諦めた。
大広間でも続いていたハーマイオニーの講義に、リディシアは興味もなく聞き流し、大皿に並べられたアップルパイに手を伸ばす。
甘いものを手にクラムチャウダースープを啜るという、そんな信じられないような食事の取り方にロンが顔をしかめ、ふいにフクロウが飛んできた。
ネビルの前に止まり、小さな小包を落としていった。
中から現れたのは、ビー玉ほどの小さなガラス玉。
「『思い出し玉』だ!ばあちゃんは僕が忘れっぽいことしってるから……何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ。見ててごらん、こういうふうにギュッと握るんだよ。もし赤くなったら……あれれ?」
ネビルが言い終わる前に玉は真っ赤に光だした。
「何かを忘れてるってことなんだけど……」
そう言ってネビルが頭を捻らせた時、マルフォイがグリフィンドールのテーブルのそばを通りかかり、玉をひったくった。
ピクリ。
と、リディシアは反応しマルフォイを見た。
ハリーとロンは弾けるように立ち上がり、マルフォイを睨み付ける。
二人とも喧嘩する気……?
そんな色を含めリディシアが二人を見ると、視線に気付いたハリーがすかさずロンを小突いた。
ちょうどその時、ミネルバが現れマルフォイとロン、ハリーを見た。
「どうしたんですか?」
「先生、マルフォイが僕の『思い出し玉』を取ったんです」
ネビルが困り顔でそう言えば、マルフォイはとたんにしかめっ面になり、すばやく玉をテーブルに戻した。
「見てただけですよ」
そう言うと、クラッブとゴイルを従えて逃げていった。
リディシアはため息混じりにそれを見送り、すっかり冷めてしまったホットミルクを飲み干した。
―*―*―
午後三時半。
ハリーもロンも、ついでにリディシアも、グリフィンドールの寮生たちと一緒に、初めての飛行訓練を受けるために正面階段から校庭へと急いだ。
よく晴れた少し風のある日で、足下の草がサワサワと波立っていた。
傾斜のある芝生を下り、校庭を横切って平坦な芝生まで歩いて行くと、校庭の反対側には「禁じられた森」が見えて、遠くの方に暗い森の木々が揺れていた。
グリフィンドール寮生が到着する前に、すでにスリザリン寮生が到着していた。