虚空の歌姫
□#02.デジタル・クイーン
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シェリル・ノーム来船。
交差点の巨大モニターにシェリル・ノームの映像が延々と映し出されているのを見上げ、今日一番のため息を吐いた。
ついに任務が開始される。
今日本部へ行けばその場で指令を言い渡されるのだろう。
ピロリロリ……―――
「……」
鞄の中の通話電子機器が機械的な音をあげて唸った。
『着信だ、応答せよ。着信だ、応答せ…―
「なんだ」
『なんだってなんだよ。開口一番それって女子としてどうなんだ?』
「ジャック。まだ約束の時間じゃないでしょう。私はこれから学校へ行かなきゃならないんだ」
『わかってるよ。ただの連絡事項だ。リヴィア、上官からの伝達を何人かに回して欲しいんだ』
「……回す?」
『お前のクラスにミハエル・ブラン、ルカ・アンジェローニが居るだろう?上官がその二人に伝達を回せだと』
「……そんなヤツ居たか?」
『とぼけるなよ。アビーの記憶力の良さは群を抜いてるって知ってるんだぞ。今から言うこと、しっかりその二人に伝えろよ?……―――――――』
「……了解」
『じゃ、任せたからな』
プツ――………ッ
「…………」
ベベルめ。
伝達に携帯を使えば良いものを……―――
ポテっとしたカエルの形の携帯を握り潰し、舌打ちを打つ。
極力クラスの連中には関わりたくなかったのに、これまでの努力がパァだ。
これまでに蓄積してきた観察力で、ミハエル・ブランとルカ・アンジェローニの二人に自分から関わろうものなら、たちまち慣れ親しまれそうで嫌だった。
同じ仕事なんですね。
俺らチームだったんだな。
仲良くしていこう。
そんな会話が、実際に目の当たりにしなくとも予想出来た。
なんだってこんなことを私が……―――
急に重くなった足取りに嫌気が差しながら、リヴィアはそれでも伝達を伝えるために学校へと向かった。
「ミス・アボット。まぁたギリギリに来たな君は」
陰険教師がこちらを睨み付け、ついに呆れた表情を浮かべた。
「……………」
なんだその目は。
なんとなく教師を見返してやれば、教師は小さなため息を吐いて手を振りやった。
「……もういいから、早く席に着きなさい」
「はい」
少し疲れた様子の教師に背を向け、自分の席に向かって歩を進める。
一年半の蓄積で、リヴィアのギリギリ入室もついに認められたようだ。
「ああ、忘れてた」
ボソッとひとりごち、リヴィアはすれ違い様に二人に小さく声を掛けた。
「ミハエル・ブラン、ルカ・アンジェローニ……後で話がある」
言って二人の顔も見ずに通り過ぎ、一番後ろの席に腰を降ろす。
「へ?」
「は?」
「ミハエル、ルカ?どうしたんだ急に」
と、二人とその隣の早乙女アルトがそう反応を示したが、知ったこっちゃない。
開始した授業に取り組むべくノートを出して、休み時間が訪れるのをごく静かに待った。
詰め込むまでもない授業内容を義務のごとく書き写していき、ボケッと外を眺めているとあっという間に一時限の授業が終了した。
あの二人の行動パターンから、すぐにこの教室から消えることはないだろうが、一応念のため。
リヴィアは教師がクラスを出ていくと同時に席を立ち、二人の元へ近付いていった。
「ちょっと来て」
声を掛ければ驚いた顔の二人が目に映る。
ほとんど口を開かなかったクラスメイトが、いきなり有名な二人に声を掛けたのだ。
通常の反応だ。
「俺らに何の用なんだ?」
「ここじゃ、ダメなんですか?」
「他人に聞かれて良い話じゃない。とにかく来て」
ぐだぐだ動こうとしない二人を睨み、リヴィアは席を立つよう促した。
顔を見合せた二人が大人しく立ち上がったのを確認し、さっさとひとり先を歩き始める。
「あ!おいっ、どこに行くんだお前ら」
「知らねーよ。あの女に聞けよ」
「ちょっと先輩!あの女、じゃなくて、リヴィア・アボットさんですよっ」
だとか騒ぐ声が聞こえ、リヴィアは思い切り顔をしかめた。
こんな奴らがS・M・Sに居るだなんて、考えられない。
ベベルめ。
何度めかのぼやきを溢し、人気のない場所へ着くと足を止める。