虚空の歌姫
□#03.センシティブ・ミュージック
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『アテナ小隊、これより作戦を開始する』
制服に装着されたピンマイクにそう告げて、リヴィアは会場の周辺警備に回った。
ジャックやリード、ゼスはそれぞれの配置に着いている。
スカル小隊の数人はイベントに混じりながらの任務となり、その穴をアテナ小隊が補う。
リヴィアに課せられた任務は、怪しい人物等を中へ入れるなという、重要なようで意外とどうでも良い任務だった。
喧騒嫌いが浸透しているための配置だろう。
それなら最初から任務に就けるなと文句を言いたいが、最悪の問題が起きた場合を考えての配置だ。
サボりつつ、適当に警備しよう。
スカル小隊とアテナ小隊、二つの小隊を動員しているのだから、ちょっとやそっとの問題が起きても大丈夫だろう。
そうとなればさっそくサボってしまえ。
会場を通り過ぎ、近辺視察とばかりに森へ入った。
ホールから離れると少しは喧騒が収まった。
そのまま休憩でもしようかと更に歩を進めていると、何者かの気配を敏感に察知した。
誰か居る?
こんな場所に?
怪しい人間でも居るのか。
腰に下げたホルダーに手を掛けながら、人影の見える場所へとゆっくりと近づいて行く。
やがて見えた人物に息を飲み、関わる相手ではないと瞬時に判断した後さっさと踵を返した。
が、それがいけなかった。
ガサ……っと木の葉が音を立て、しまったと思った次の瞬間には相手に気付かれてしまっていた。
「誰だ!」
逃げようとしたのにそう声を掛けられて、リヴィアは動けなくなる。
ここで走り去るのは人間としてどうなのか……。
そう考えたら、とにかく謝った方が良いと結論が出た。
「……っ。悪い、貴方の着替える姿を見るつもりはなかった。すぐに消えるから許して欲しい」
顔を見合わせなければ大丈夫か?
相手に自分が何者かバレたらややこしいことになる。
彼が着替え中だったのを見てしまったのも罰が悪いが、ここに彼が居たことも最悪な事態だ。
返事をくれない彼を訝しんだが、次の瞬間には更に息を飲まされた。
「その制服……お前、何者なんだ?」
肩に掛けられた手の感触。
ついでぐいっと方向転換させられ、目を見開いた。
「なっ!?」
顔を見られる……!!
これ以上ややこしいのは嫌なのに……っ。
内心叫ぶも遅し。
リヴィアはあっさりと彼に顔を見られ、口をパクパクとさせてしまった。
思ったより近距離に居た彼に顔をまじまじと見られ、軽く冷や汗を掻く。
ヒュッと息を飲む彼に私の平和は終わったと思いながら、栗色の目と視線を合わせ唇を噛み締めた。
美星学園航宙科二年、早乙女アルト。
つまり、彼はリヴィアの同級生だった。
よりによってS・M・Sの制服を着ている時に会うだなんて最悪だ。
彼が演出スタンドのスタッフに選ばれていたのを知っていたはずなのに、忘れていた。
どうにか誤魔化せないかと目をさ迷わせ、なかなか良い考えも浮かばず冷や汗ダラダラになる。
早乙女アルトは未だこちらを凝視していて、なんとも居心地が悪かった。
勝手に責められている気分になり、視線を逸らしもう一度謝る。
「いや、あの……本当にすまない。見るつもりはなかったんだ……」
しっかり目に焼き付いてしまった早乙女アルトの生着替え。
女みたいな顔をしているくせに、体躯はちゃんと男性のそれで、申し訳ない気持ちになってしまった。
ひ弱のひょろっこいヤツだと思っていたのが申し訳ない。
ダラダラ流れる冷や汗を気にする余裕もなく視線を泳がせ続けていると、ふいに早乙女アルトが声を掛けてきた。
「お前……S・M・Sの人間なのか?女で……?」
胸元のバッチを見たのだろう。
早乙女アルトはそう尋ねて、ようやくリヴィアの肩から手を離した。
「あ、ええ。……あの、もし怒って居ないのなら、ここから離れても?」
何故こうも見られて居るのかわからないが、居た堪れない。
視線から逃れるように顔を背け、一歩彼から後退る。
「あ、おいっ!」
早乙女アルトが声をあげ、それに驚きビクリと身を震わせてしまった。
足元がおぼつかなくなり、ズルっと木の葉で滑り体勢を崩した。
「ゎあっ!?」
「危ないっ!!」
二人が叫んだのはほぼ同時。
後ろに倒れかけたリヴィアを、早乙女アルトが咄嗟に抱き止めた。
またまたぐいっと寄せられ、またまた近距離になった視線。
性分違いにも、思わず顔に熱が集中してしまった。