虚空の歌姫

□#05.フレンズ
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痛みが、悲しみが、恐怖が。


渦となって身体の中に広がっていく。


敵を殲滅しただけなのに。


この胸に込み上がる虚しさは何?


『お姉……ちゃ……―――』


「ユリス……!! ぁ……」


薄暗い室内。


リヴィアはふと我に返って嘆息を落とした。


今のは、幻聴。


いや、遠い記憶の一部だ。


微かに荒れている自分の呼吸に参りながら、今置かれている状況を理解するべく辺りを見渡した。


待合室と掲げられた札が静かに点灯し、かろうじて室内を照らしている。


リヴィア以外に人の気配などはなく、耳鳴りが聞こえそうなほどにシンと静まり返っていた。


ついさっきまで見ていた嫌な記憶を振り切るように、リヴィアは頭を振りもう一度嘆息を落とす。


気が、狂いそうだ……―――


バジュラ殲滅を遂行し、半狂乱気味に血をたぎらせていたリヴィアをジャックとゼスが落ち着かせ、帰還させた。


狂気と絶望の境で揺れ動いていたリヴィアの意識が鎮静化したのは、病院へと収容されて身体検査を受けた後のことだった。


気付けば全ての収拾がつき、誰もが疲労から睡魔に身を委ねていた。


ひとり、誰も居ない待ち合い室に座っているのも、どうしてだかは記憶にない。


ただただ無音の中で耳鳴りだけを聞いていて、痛みを感じていた。


「………すまない」


助けられなくて、間に合わなくて。


ごめんなさい。


リヴィアの中ではその意識だけが渦巻いていて、まともに頭が働かない。


いつもそう。


肝心なところで、私は何も出来ないんだ。


「リヴィア・アボット、か?」


突然、待合室に響いた声。


反射的に立ち上がり、背後から聞こえた声に振り向けば意外な人物がそこに居た。


「!……リー、少佐……?」


無精髭を生やした、あまり隊員には見えないスカル小隊のリーダー。


彼の顔を見たとたんに、リヴィアはひどい罪悪感に苛まれた。


一気に表情が暗くなったリヴィアを眉をひそめて見詰め、リー少佐はゆっくりと彼女に歩み寄る。


「えらく沈んだ顔をしているんだな。ミッションは成功……ほとんどあんたの手柄だって言うのに、いったいどうしたんだ?」


思ってもみなかった言葉を掛けられ、リヴィアは瞳を見開いた。


「私の、手柄……っ!?あんな、失敗……―――っ」


失敗?


いや、違う。


あれはひとつの命を救えなかった、自分自身の失態だ。


罪に価するもので、決して成功と呼べるような代物じゃない。


それなのに、この男はまた飄々と言ってのけた。


「失敗?ぁあ……確かに、少し街を破壊し過ぎたかもなあ」


なんて笑って、何も悪いことがなかったかのように肩をすくめる。


「っ……どうして、私を責めないんですか!! 彼は、あんな場所で死ぬべき人間じゃなかった……!!」


バジュラの手のなかで、消え失せた命。


もっと早くに到着していれば。


もっと早くに選択をしていれば、あんなことには……―――


唇を噛みしめ、まるで懺悔するように俯いたリヴィア。


リーは息を飲み、リヴィアに更に近寄った。


「お…おい、いったい何の話をしてるんだ? 死んだって、誰のことだよそりゃあ。今回のミッションで、俺たちS・M・Sに死人はひとりも出てないぞっ」


目の焦点がゆらゆらと揺れるリヴィアの肩を捕まえ、リーは驚き叫んだ。





 
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