虚空の歌姫

□#05.フレンズ
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拒否られたと勘違いした二人は、一気に表情を暗くさせ、それを見たリヴィアは慌てて弁解を訴えた。


「いやっ、決して二人が嫌な訳じゃないんだ!面倒だとは思ってはいるが、ただ単にそういう俗な場所が苦手で……」


言いながら、フォローなのか悪化させているのかわからなくなる。


「面倒って……正直過ぎないか?」


「何気に失礼なんですね、リヴィアさんて」


堪らず笑い出した二人に呆気に取られ、思わずリヴィアも笑ってしまった。


「くっ……はは!すまない。私はどうも、嘘や世辞が言えない質らしいんだ」


眉根にシワを作り、笑い声をあげるリヴィア。


ルカとミハエルはハッとして、ついで破顔した。


「やっと笑った」


「もしかすると、僕らの前では一生笑ってくれないんじゃないかと思いましたよ」


嬉しそうに笑う二人に、リヴィア自身目を丸めた。


言われてみれば、ゼスやリード、ジャックの側以外で、こんな風に笑ったことはなかった気がする。


なんだかその事実すらおかしくて、リヴィアは苦笑を溢した。


「そんなに絡みにくいかな、私は」


別に他人を避けている節はないのだけど……と笑い、リヴィアは肩をすくめる。


するとルカとミハエルは盛大に笑いだした。


「自覚なかったのか?」


「リヴィアさん、『私に近付くな』ってオーラがすごい出てますよ」


クスクス笑うクラスメイトに顔をしかめ、リヴィアはまた肩をすくめた。


「それは、知らなかった。でも、確かに。他の隊員たちには、あまり声を掛けられない気がする」


ひとり納得するように呟き、頷いたリヴィアにまたまた笑いだす二人。


彼女は、思っていたよりも関わりやすい人間なのかもしれないと、ルカとミハエルはそう思った。


「俗な場所が苦手なら、学校で昼食の時にでもご一緒しませんか?」


「それは良い。リヴィア、そうしようぜ。実はファーガス中佐の話も聞きたいんだ」


提案したルカにミハエルが大賛成し、瞬きを繰り返すリヴィアにひとつウィンクを投げる。


あまりクラスの連中と関わるつもりはなかったが、せっかくの誘いを無下にも出来ず、リヴィアは頷いた。


「それくらいなら、大丈夫……だと思う。場所は私が選んでも?」


騒がしい場所は苦手だから。


と続ければ、ルカもミハエルも快く頷いてくれた。


「それじゃ、明日は楽しみにしとくよ」


「明日はよろしくお願いします!じゃあ僕たち、そろそろ戻ります」


嬉しそうに手を振り去っていく二人を見送り、リヴィアは僅かに口角を緩めた。


存外、周りに騒ぐ連中が居なければ、二人は接しやすい人間だったと気付かされる。


騒がしいのが苦手なリヴィアだが、交遊関係が面倒な訳ではない。


好意を寄せてくれる人間がいると嬉しいし、ああやって関わろうとしてくれる人達が居るのは喜ばしい。


明日の昼食タイムが少し楽しみに思えている自分が居て、少し苦笑する。


存外、自分もおかしな人間だと……。


遠ざけていても、近寄って来てくれたら嬉しいだなんて相当ひねくれてる。


だけど、二人が友人関係を結ぼうとしてくれてるなら応えたいと思った。


少し視野が開けた気がして、リヴィアは知らず知らず笑っていた。


半身とも言える自分のバルキリーを撫で、そっと瞼を閉じる。


私に、今ある確かなものを守るための力を、与えて……―――


戦闘用バルキリー、VF-26X。


ワインレッドとゴールドがあしらわれた、白銀のメサイア。


遠い記憶を手繰り寄せ、リヴィアは願うように囁く。


「もう誰も、失いはしない……―――」


決して、誰も死なせはしないと。


バジュラの襲撃を思いそっと唇を噛みしめたリヴィアは、自分の機体を撫でそう誓ったのだった。




























「いやぁ、驚いた」


リヴィアから離れたあと、ミハエルはそう溢していた。


彼の言葉にルカも頷いて、惚けた溜め息を溢す。


「リヴィアさん、笑ってましたね。あんな風に笑ってくれるとは思ってませんでした」


恍惚と呟くルカにミハエルは薄く笑みを作り、ついで表情を暗くさせた。


「笑うとますます美人だ。まずいな、思っていたよりハマりそう」


溜め息混じりにそう溢したミハエルにぎょっとして、ルカは慌てて彼に詰め寄る。


「ダメですよミシェル先輩っ。あの人はアテナ小隊の一員なんですから、遊びで口説いたりしたら殺されますよ!」


「わかってるよ。でも、本気なら良いんだろ?まあ、気を付けるけど」


必死なルカに適当に笑って返し、ミハエルは遠くに居るリヴィアをちらりと一瞥した。


バルキリーに触れ、祈るように振る舞う彼女の姿は酷く幻想的だ。


さっきの笑顔を思い出せば胸の辺りがくすぐったくて、もっと近くに行きたいと願ってしまう。


まだまだ謎の多い彼女を思い、苦笑する。


「さしずめかぐや姫……ってか」


決して届かないような、儚い存在。


それと酷似していて、少しもどかしい。


「何か言いましたか?ミシェル先輩」


自分の機体のチェックに入っていたルカがこちらを振り返り、尋ねるように視線を投げた。


それに「別に」と笑って返し、ミハエルもまた自分の機体のチェックに入ったのだった。





















宇宙に潜むは影と絶望。


傷みは繰り返され、銀河は悲しみの唄を広げる。


物語はまだ、序章にすぎない。







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