虚空の歌姫

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機体のチェックが終了し、少し休憩に入ろうとしたその頃だった。


どこかに消えていたオズマ・リーと、アテナ小隊上官ベベル・ファーガスが戻って来た。


耳の良いリヴィアは厄介事がやって来たと悟り、さっさと休憩室へ逃げ込もうと歩き出す。


が、ベベルの目はそれを許さなかった。


「どこに行く気だアビー!!」


「ぐっ……」


リヴィアは少佐や中佐ではなくても、いち小隊のリーダーだ。


問題があれば関わらない訳にはいかず、今回もそう。


「お前も見ていたはずだ。話に加われアビー」


とかなんとか言いがかりをつけ、上官特権を振りかざそうとするベベルをリヴィアは半眼で睨みあげた。


「上官、私は無関け……―――ッ!?」


ベベル上官の向こう、オズマ・リーの隣に、見知った姿を見付け目を見開く。


「早乙女ッ!?」


何でここに……っ!!


もうこの制服を着ている時に会うことはないと踏んでいただけに、予定外の事態に脳が真っ白になった。


「お前!あの時の……ッ!!」


早乙女アルトもリヴィアの姿を見付け、驚愕に叫び声を上げ、その瞬間に辺りがざわつき始める。


ああ、最悪だ。


室内に響く騒音に頭痛がした。


ベベルは互いに目を丸くする二人を見遣り、眉をひそめるとふいにひとつ頷いた。


「なんだ知り合いか。なら話は早いな」


「だから何の話なんだっ。私は何も見ていませんよベベル上官!」


面倒事を持って来やがってとばかりに上司を睨み、リヴィアは罰が悪そうに早乙女アルトから視線を逸らす。


未だ向けられたままの眼差しが肌に痛く突き刺さり、酷く居心地が悪かった。


「コイツが、ギリアムの負傷後にバルキリーに乗ったんだよ。側に居たのは、確か貴女だったと思われるが?」


やけに真面目くさった調子で尋ねるリー少佐。


リヴィアは眉間に深いシワを刻み、その気はないがギロリとリー少佐を睨んでしまった。


端正な顔立ちに、宝石のような深いスカイブルーの瞳に凄まれると、相手が格下であっても少し怖いものがある。


リーは思わず唾を飲み、息を詰まらせた。


「バカたれ、威嚇をするな青っ鼻が」


ペシっと頭をはたかれ、衝撃で左右にぶれるリヴィア。


その光景は少し面白くて、リーは微かに笑ってしまった。


それを呆気に取られて見ている早乙女がいて、ベベルは話を戻せとリヴィアに視線でそう告げる。


「……申し訳ないことに、私はあの後自分でも呆れるくらい暴れてしまったので、目の前以外は一切見えて居ませんでした」


「ああ、そう言えばジャックとゼスがそんなことを言っていたな」


顎を揉み、納得したようなベベル。


そんな彼に、リヴィアは嫌な顔をした。


なら、もう良いだろう。


早く私をこの場から除外しろ。


そう言わんばかりの視線を上司に向け、リヴィアは更に早乙女から視線を逸らす。


これ以上話がややこしくなるのは御免こうむりたいし、厄介事に巻き込まれるのも御免だ。


けれど、問題というのは次から次へとやって来るもので、今回もそれは例外ではなくて……。


「何です?この騒ぎ」


「って、アルト!?」


「ミハエル……?ルカ……?」


騒ぎを聞き付けてやって来た二人と、その二人を見て目を丸めた早乙女。


リヴィアは酷い頭痛を覚え、深い溜め息を吐いた。


が、最悪は更に訪れる。


館内に響いた突然の警報音。


赤いランプが辺りを照らし、痛むリヴィアの頭を更に痛めた。


『緊急事態発生。緊急事態発生。ミッションコードヴィクターが発令された。繰り返す、コードヴィクターが発令、ただちに戦闘配置に着け』


緊急を知らせるアナウンスから零れたコードヴィクターの警報。


全員の表情が一気に変わり、あちらこちらから罵声と舌打ちが響いた。


「ちっ!」


「またかっ!!」


「軍は何をしていたんだ!!」


すぐさま自分の機体へと駆け込む隊員たち。


リヴィアも例外ではなしに機体に乗り込もうとした。


が。


「待て!! 俺も、俺もバルキリーに乗せろっ!!」


そう叫んだ早乙女。


だが、彼が掴んだのはリヴィアの腕だった。


「なっ!? バカっ放せっっ」


緊急事態だというのに、何を……―――


そう思ったのもつかの間、早乙女はリー少佐に横から思い切りぶん殴られた。


「何ふざけたこと抜かしてやがる!この甘っちょろのガキがっ!!」


衝撃でリヴィアの腕を離し、早乙女がぶっ飛んでいく。





 
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