虚空の歌姫
□#06.エンカウンター
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薄暗いシェルターの中、リヴィアはひとり茫然自失に捕らわれていた。
そんな様子のおかしい彼女に気付いたアルトが、リヴィアに近寄りそっと肩に手を触れる。
「おい、リヴィア?大丈夫か?」
声を掛けられ、肩を叩かれたことでようやく我に返り、リヴィアは間抜けた声をあげた。
「あ……? あ、ええ、私は大丈夫。でも、みんなが……」
言いながら声量はどんどん下がっていく。
きっと彼らはリーダーなど居なくても大丈夫だろうが、リヴィアは自分の仲間たちが心配だった。
ベベルが臨時的にリーダーを勤めていたとしても、バジュラを相手にどこまでS・M・Sが対抗出来るかなど、予測不可能なのだ。
表情を曇らせ、少しだけ俯いてしまったリヴィアに気付き、声を掛けたアルトもハッとして息を飲んだ。
パイロットである彼女の境遇を思い、少しばかり居た堪れない気持ちになる。
中へ引き込んだのはアルト。
思えば、リヴィアは最初から戦闘に戻ろうとしていたのに……。
「その、すまない。アンタを巻き込んでしまった」
申し訳なそうに項垂れたアルトに、リヴィアは顔を上げ、弱々しく微笑んで返した。
「いや、いい。目標を警護するのが今の私の任務であったし、貴方は気にしないで」
チラリとシェリルを一瞥し、苦笑を溢す。
重要人物を守れなかったとあれば、それこそ二度とバルキリーには乗れないだろう。
数時間の辛抱だと自分に言い聞かせ、リヴィアはその場に腰を降ろした。
そこで、シェリルがリヴィアをじっと見詰め問いかけた。
「ねえ、貴女。その格好からして、パイロットなの?」
バルキリースーツの上に、ジャケットを羽織っただけのリヴィアの姿。
珍しいものを見るかのように視線を向けてくるシェリルに、リヴィアはあっさり頷いた。
「S・M・Sアテナ小隊に所属しています。今回は貴女の警護の任務に就いています」
礼儀正しく、それでいてやや素っ気ない受け答え。
シェリルは眉を上げ、面白いものを見付けたと言いたげに笑った。
「貴女、変わってるのね」
「は?」
突然の変わってる宣言。
思わず礼儀も忘れ変な声を上げてしまった。
それにすらもシェリルは笑い、頷いた。
「ふふふ。貴女、悪くないわ」
「???」
理解不能だ。
と、そこで、リヴィアはふと喧し娘の異変に気付く。
「喧し……そこの貴女、どうした? 身体が震えている」
その場から立ち上がり、緑色の髪をした喧し娘の側まで近寄り、リヴィアは彼女の顔をそっと覗き込んだ。
微かに、身を震わせている。
「……へへ。気が抜けたら、何だか震えちゃって……」
弱々しく返した彼女に、リヴィアは息が詰まる思いを感じた。
遠い過去が顔を出したような、切ない気持ち。
「怖い思いをさせてすまない……」
言いながら、無意識に彼女の背中に腕を回していた。
ぎゅっと抱きすくめ、耳元で低音で囁いてやる。
「大丈夫。貴女も、必ず私が守るから。絶対に家に帰すから、泣かないで」
最後にもう一度ぎゅっと抱きしめて、ゆっくりと腕を離し微笑む。
暗がりの中でもリヴィアの笑みはハッキリと見えていて、アルトとシェリル、そして当事者もまた息を飲んだ。
「リヴィア……」
アルトが堪らずそう名を呼び、それにシェリルが反応する。
その横で喧し娘もまた頬を染め、自分でも驚いたように自身の手を見た。
「震え、止まった……。あ、ありがとうございます!えと、リヴィアさん?」
「良かった。まだ少し怖いかもしれないけれど、もうちょっとの辛抱だから」
穏やかに笑って、リヴィアは喧し娘の頭を優しく撫でた。
リヴィアの喧し娘への扱いに、アルトは何故だか違和感を覚えながら、まるで姉妹のようなその光景に笑った。
そんな顔も出来るんだな……。
そんなことを考え、ふとシェリルを見る。
食い入るようにリヴィアを見つめる彼女に、首を傾げ瞬きを繰り返した。
「……?」
「ねえ、貴女、リヴィア・アボットと言ったわよね」
「?……ええ」
それが何か?
喧し娘から離れながら、リヴィアは視線でそう返す。
「どこかで会ったことはなかったかしら?」
「貴女と? いや……ないと思う。貴女がこのフロンティアに来たのは、今回が初めてのはずでしょう?」
言って、リヴィアは肩をすくめた。
シェリルと一度会っていたなら、忘れるはずはないと。
「そう……。気のせい、か」
納得のいかなそうな顔をしながら、シェリルは呟く。
その様子をアルトと喧し娘が見守っていて、リヴィアは居心地が悪いものを感じた。
何にせよ、シェルターから出られるのはもう少し後になりそうだ。
バジュラと、そして必死で闘っているだろう仲間たちを思い、リヴィアは小さな溜め息を溢したのだった。
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