虚空の歌姫

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薄暗いシェルターの中、リヴィアはひとり茫然自失に捕らわれていた。


そんな様子のおかしい彼女に気付いたアルトが、リヴィアに近寄りそっと肩に手を触れる。


「おい、リヴィア?大丈夫か?」


声を掛けられ、肩を叩かれたことでようやく我に返り、リヴィアは間抜けた声をあげた。


「あ……? あ、ええ、私は大丈夫。でも、みんなが……」


言いながら声量はどんどん下がっていく。


きっと彼らはリーダーなど居なくても大丈夫だろうが、リヴィアは自分の仲間たちが心配だった。


ベベルが臨時的にリーダーを勤めていたとしても、バジュラを相手にどこまでS・M・Sが対抗出来るかなど、予測不可能なのだ。


表情を曇らせ、少しだけ俯いてしまったリヴィアに気付き、声を掛けたアルトもハッとして息を飲んだ。


パイロットである彼女の境遇を思い、少しばかり居た堪れない気持ちになる。


中へ引き込んだのはアルト。


思えば、リヴィアは最初から戦闘に戻ろうとしていたのに……。


「その、すまない。アンタを巻き込んでしまった」


申し訳なそうに項垂れたアルトに、リヴィアは顔を上げ、弱々しく微笑んで返した。


「いや、いい。目標を警護するのが今の私の任務であったし、貴方は気にしないで」


チラリとシェリルを一瞥し、苦笑を溢す。


重要人物を守れなかったとあれば、それこそ二度とバルキリーには乗れないだろう。


数時間の辛抱だと自分に言い聞かせ、リヴィアはその場に腰を降ろした。


そこで、シェリルがリヴィアをじっと見詰め問いかけた。


「ねえ、貴女。その格好からして、パイロットなの?」


バルキリースーツの上に、ジャケットを羽織っただけのリヴィアの姿。


珍しいものを見るかのように視線を向けてくるシェリルに、リヴィアはあっさり頷いた。


「S・M・Sアテナ小隊に所属しています。今回は貴女の警護の任務に就いています」


礼儀正しく、それでいてやや素っ気ない受け答え。


シェリルは眉を上げ、面白いものを見付けたと言いたげに笑った。


「貴女、変わってるのね」


「は?」


突然の変わってる宣言。


思わず礼儀も忘れ変な声を上げてしまった。


それにすらもシェリルは笑い、頷いた。


「ふふふ。貴女、悪くないわ」


「???」


理解不能だ。


と、そこで、リヴィアはふと喧し娘の異変に気付く。


「喧し……そこの貴女、どうした? 身体が震えている」


その場から立ち上がり、緑色の髪をした喧し娘の側まで近寄り、リヴィアは彼女の顔をそっと覗き込んだ。


微かに、身を震わせている。


「……へへ。気が抜けたら、何だか震えちゃって……」


弱々しく返した彼女に、リヴィアは息が詰まる思いを感じた。


遠い過去が顔を出したような、切ない気持ち。


「怖い思いをさせてすまない……」


言いながら、無意識に彼女の背中に腕を回していた。


ぎゅっと抱きすくめ、耳元で低音で囁いてやる。


「大丈夫。貴女も、必ず私が守るから。絶対に家に帰すから、泣かないで」


最後にもう一度ぎゅっと抱きしめて、ゆっくりと腕を離し微笑む。


暗がりの中でもリヴィアの笑みはハッキリと見えていて、アルトとシェリル、そして当事者もまた息を飲んだ。


「リヴィア……」


アルトが堪らずそう名を呼び、それにシェリルが反応する。


その横で喧し娘もまた頬を染め、自分でも驚いたように自身の手を見た。


「震え、止まった……。あ、ありがとうございます!えと、リヴィアさん?」


「良かった。まだ少し怖いかもしれないけれど、もうちょっとの辛抱だから」


穏やかに笑って、リヴィアは喧し娘の頭を優しく撫でた。


リヴィアの喧し娘への扱いに、アルトは何故だか違和感を覚えながら、まるで姉妹のようなその光景に笑った。


そんな顔も出来るんだな……。


そんなことを考え、ふとシェリルを見る。


食い入るようにリヴィアを見つめる彼女に、首を傾げ瞬きを繰り返した。


「……?」


「ねえ、貴女、リヴィア・アボットと言ったわよね」


「?……ええ」


それが何か?


喧し娘から離れながら、リヴィアは視線でそう返す。


「どこかで会ったことはなかったかしら?」


「貴女と? いや……ないと思う。貴女がこのフロンティアに来たのは、今回が初めてのはずでしょう?」


言って、リヴィアは肩をすくめた。


シェリルと一度会っていたなら、忘れるはずはないと。


「そう……。気のせい、か」


納得のいかなそうな顔をしながら、シェリルは呟く。


その様子をアルトと喧し娘が見守っていて、リヴィアは居心地が悪いものを感じた。


何にせよ、シェルターから出られるのはもう少し後になりそうだ。


バジュラと、そして必死で闘っているだろう仲間たちを思い、リヴィアは小さな溜め息を溢したのだった。





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