虚空の歌姫
□#07.ガールズ
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シェルターに閉じ込められて数刻。
だんだんと、四人の間に重い空気が流れ始めていた。
否、四人・・・というよりは、限定された二人の間に、と言った方が正しい。
剣呑に睨み合う早乙女アルトとシェリル・ノームの二人。
その間では、ランカ・リーがおろおろと右往左往し、リヴィアはそれとは別の問題に頭を悩ませていた。
二人の言い合いを止める気にはなれない。
アルトとシェリルがこうも犬猿的なのは、あることが原因だから仕方ないとして。
一方で、リヴィアが抱えるこの問題は、放っておくには幾分にも危険過ぎた。
かと言って彼らに説明してやるのも、これまた気が引ける。
教えたことによって、三人がパニックを起こしてしまう恐れもある。
それは今、彼女が一番に恐れているものであり、解決策が見つかりそうにもないこともあって、リヴィアはただ口を噤ませていた。
辺りを見渡しながら、何処かに解決の糸が転がってはいないかと探りを入れていく。
そうして彼女がひとり゙任務゙に就いている間も、シェリルはアルトに喰って掛かった。
「あれくらいで済んで良かったと思いなさい!この、変態っ」
「見たくて見た訳じゃねえよ!! それに、ライブではいつも露出しまくってんだろーがっ」
「ライブとオフとじゃ訳が違うのよ!ヤラシイ目で見ないでっ」
「誰が!!」
「あわわわっ」
なんて、喧しい口喧嘩の言い合い。
狭いシェルター内でこうも騒がれると、こめかみの辺りがズキズキと痛むというのに。
イヤホンが少し前からうまく作動してくれないのも頭痛の原因で、リヴィアは痛むこめかみを揉みながら小さくため息を落とした。
正直なところ、今は酸素を無駄にしないで欲しいのだが・・・・・・。
リヴィアは静かに立ち上がると、壁をペタペタとまさぐり回った。
解決策・・・否、脱出経路を探さなくてはならない。
運が悪いことに、このシェルターは緊急時用離脱シェルター。
しかもメンテナンスがきちんと行き届いていないらしく、うまく作動してくれていない。
そこは運が良かったと言うべきか、なんてことは今のリヴィアには見当もつかないが、大問題が発生していることから現実逃避も出来なかった。
( 酸素濃度が随分と減ってきたな・・・── )
未だ言い争う二人をチラリと一瞥すれば、ランカが必死で場を和ませようと試行錯誤している。
「私、いいもの持ってるんです!お腹が空いてはなんとやらって言うじゃないですか!娘娘名物、マグロまん!!」
「・・・!!」
「なっ!」
「あ、あの、コレ食べて、お腹いっぱいになったら・・・その・・・・・・」
「ぷっはっ!!」
「ぷっ、ふふふっ。やっぱり可愛いわ、貴女」
というやりとりに眉をひそめながら、リヴィアもコッソリ笑う。
乳を見ただの、見たくなかっただのという話をしている時にソレを見せられたのだ。
笑ってしまうのも道理。
壁伝いに移動し、リヴィアは幾つかのボタンを見付け思考を廻らせた。
グリーンのボタンにランプが点いておらず、レッドの非常ボタンがチカチカと点滅を繰り返している。
これはきちんと作動していないという証拠であり、張り巡らされた幾つものパイプの向こうに見える配線が切れているのを見付けると、更に頭が痛くなった気がした。
「ここもダメか・・・・・・」
ひとりごちて、リヴィアはまた更に壁伝いに進んでいく。
ひとつひとつを丁寧に確認していき、使える機材がないかを探すがどれもダメだった。
そんな時だ。
リヴィアが先に気付いていた異変にシェリルが気付いてしまったのは。
「ねえ、なんか、空気悪くない?」
「皮肉ならやめろよ」
「違うわよ。本当に空気が悪いのよ!なんかこう・・・息苦しいような・・・・・・」
「・・・? まさか!!」
ドア付近でボタンやレバーを調べるリヴィアに駆け寄り、アルトが幾つかあるメーターに顔を近付けた。
そして次の瞬間には、その顔に絶望の色を浮かばせ言葉を失う。
さすがに黙って居られなくなったリヴィアは、重たい口を開き三人に今置かれている状況を簡単に伝えることにする。
「室内の酸素濃度が減少している。このシェルターは管理不備で・・・扉のロックを解除する機能も作動していない」
つまり、閉じ込められたということ。
リヴィアのやけに冷静な説明に三人の顔が青くひきつる。
この状況には打開策も浮かばず、リヴィアもまた深いため息と共に肩をすくめるのだった。