紫雲の錬金術師
□第5話 明かされる真実
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どんな顔をするのだろう。
どんな風に、思うのだろう。
シオンは、オレ達の罪を、どう咎めるのだろう・・・・・・──
「……なるほど、そうか貴様……なぜこんなガキが “鋼” なんぞというイカツイ称号を掲げているのか不思議でならなかったが……そういう訳か……」
コーネロが合点がいったと引きつった笑みを浮かべる。
オレは、誰の顔も見ることをしなかった。
どこを見たって、向けられている視線はきっと同じだから。
「ロゼ、この者達はな、錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている “人体錬成” を、最大こ禁忌を犯しおったのよ!!」
「……!」
「………」
息を飲むロゼと、言葉を発しないシオン。
ロゼに真実を教えてやるために身を晒したはずなのに、オレは右腕を隠したくて仕方ない気持ちになった。
アルフォンスも、きっと不安に思っているかもしれない。
シオンがどう反応するのか、アルフォンスはずっと怯えていたのだから。
けれど、アルフォンスはロゼをどうにかしてやりたい気持ちも強い。
オレ達がどうしてこんな姿になったのかを、アルフォンスが掻い摘んで話して聞かせた。
母さんを生き返らせようと人体錬成に手を出したこと。
失敗して、オレは錬成の過程で左足を。
アルフォンスは身体全部を持って行かれたということ。
アルフォンスを取り戻すために、さらに右腕を差し出したこと。
「兄さんは左足を失ったままの重傷で……今度はボクの魂をその右腕と引き替えに錬成して、この鎧に定着させたんだ」
「へっ……二人がかりで一人の人間を甦らせようとしてこのザマだ……ロゼ。人を甦らせるってことは、こういうことだ」
何かの犠牲を無しには何も得られない。
それどころか、人体錬成なんてもんは失うものばかりで、マイナスしか返って来ないのだ。
「その覚悟があるのか?あんたには!!」
身に起きた悲劇を繰り返させたいなんて思うはずがない。
オレは、恐怖に顔を青ざめさせているロゼに畳み掛けるように声を荒げた。
そこで、コーネロがまたうざったく笑い出す。
「なるほど、なるほど。それで賢者の石を欲するか。そうだなぁ。これを使えば人体錬成も成功するかもなぁ?」
「カン違いすんなよハゲ!石が欲しいのは元の身体に戻るためだ。……もっとも、元に戻れる “かも” だけどな……!」
可能性は不測だ。
賢者の石がどこまでの力を持っているのかもわからない。
けれど、いまはそれにすがるしかない。
「教主さん、もう一度言う。痛い目見ないうちに石をボク達に渡してほしい」
「くく……神に近づきすぎ地に堕とされたおろか者どもめ……ならばこの私が今度こそしっかり、神の元へ送り届けてやろう!」
ピシリと、強烈な錬成反応が起こる。
コーネロは持っていた杖をマシンガンに作り変え、オレ達に銃口を向けた。
まあ、そんなものまず当たんねぇんだけど。
「いや、オレって神様に嫌われてるだろうからさ、行っても追い返されると思うぜ」
とっさに錬成した壁をガードにして、弾を全部弾いてやる。
シオンはアルフォンスが盾になったおかげで無傷でいる。
そのことにホッとしながら、すぐさま次の作戦を頭の中で繰り広げていく。
「アル!いったん出るぞ!」
狭い室内じゃどうにもやり辛い。
守らなくてはいけない対象がいるなら、なおさら。
アルフォンスがロゼを抱えて走り、シオンもそれにならって扉の方へと駆けて行った。
コーネロはアルフォンスを狙ってマシンガンを連射させるが、あいつにそんなものが効くわけもなく。
全弾、弾き返していた。
そしてその隙にシオンが先に扉の方へとたどり着く。
「バカめ!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!!」
「エドワード、開かない!」
ようやく声を上げたシオンがオレの名を呼び、困ったように眉を寄せる。
久しぶりに聞いたその声に、何故だか力が湧いてきた。
「まかせろ!」
両手を合わせ、何もない壁の方へとオレは走る。
壁にたどり着くとその手を触れさせ、瞬時に錬成した。
「出口が無けりゃ作るまでよ!」
何もなかった場所に鉄製の扉を作り出し、すぐさま開けはなつ。
シオンも同じく着いてきて、その後ろからロゼを抱えたアルフォンスが続く。
表情を変えたコーネロが、外に待機していた信者達に慌てて指示を出した。
「何をしておる!追え!」
脱兎のごとく駆けていくオレらを、信者どもが一斉に追いかけてきた。
「ちっ。面倒くせぇな」
「でも足は遅いね」
「とっとと逃げ切るか」
背後の追走者を振り切るように走るスピードを上げれば、ふいにシオンが「あ」とこぼす。
「エドワード、アルフォンス。前」
言われて前へ視線を戻せば、数名の武器を持った男達が立ちはだかっていた。
「ほらボウズ、丸腰でこの人数相手にする気かい?」
「ケガしないうちにおとなしく捕まり……」
パン!
右腕の機械鎧を刃物に作り変えて、敵を一瞬で蹴散らしてやる。
ふと心配になってシオンを見れば、見たこともない緩かな動きで敵をなぎ払っていた。
ふわりと浮くように、男達がゆっくりと吹き飛ばされていく。
思わず絶句し、大佐の言っていた言葉を思い出す。
『シオンは強い。錬金術抜きなら、私は勝てる気がしないよ』
「(大佐が言っていたのはこれか……)」
男達はシオンに触れることすら出来ず、払われていく。
それを、シオンは相手を傷付けることもなくやってのけた。
「(確かに、下手な大人より強ぇかも)」
現にここにいる男達は誰一人彼女を捉えることが出来ないのだから。
ようやく信者どもを振り切り、一本の長い廊下を駆け抜けていた頃。
ふと、マイクが設置された部屋を見つけた。
ロゼに問えば、コーネロがラジオで教義をするさいに使う放送室だとか。
ニヤリと、笑みが浮かぶ。
アルフォンスが何かを察したのか、ジッとオレを見て来たが知らんぷりだ。
「(面白いこと思いついたぜ)」
頭の中ですぐさまシチュエーションを考え、アルフォンスにシオンとロゼを外へ連れていくように告げる。
「この協会の上に鐘があったろ。アルフォンス、アレを取って来て下で繋げてくれ」
簡単に計画を伝えて、これからのことを思い鼻歌をこぼす。
シオンが勘付いたような表情でこちらを見て来た。
またニヤリと笑って返せば、呆れたような色を滲ませながらもシオンが小さく笑った。
それがまた、妙に気分を良くさせる。
「さて、ショーの始まりだ」