ゲットバッカーズ〜dream the world〜

□記憶の破片を取り戻せC
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「アイツは見た目はチョロそうだが、この場所で一番の実力者だ。気を付けた方がいい」


ワンは目を細め、そう警告した。


そんな彼に花月が怪訝な表情を浮かべる。


「何故……そんな情報を僕らに教えるんです?」


こっちが有利になる情報を、わざわざ教えてくるのはどういうわけなのか。


真意を探るべくワンを見つめた花月に、ワンはスッと遠くを見るように目元を緩ませる。


「……私が、ここから出たいからかもしれん……」


まるで捕らわれているかのような言い種。


士度はしかめっ面を浮かべ、ワンを小馬鹿にするように見おろした。


「出たい?ならさっさと出ていけば良いじゃねぇか」


「ええ、貴方ほどの実力者なら、このビルを出ても生きていけるのでは?」


どんな傷をもすぐに回復する力がある、戦闘能力も破格。


出ようと思えば、こんな場所を出ても生きていけるはずだった。


だが、ワンの答えはそう簡単なものではないらしかった。


「……出来ない。私は林川に心臓を握られているからな。それに、あやつらを守るという使命もあるのだ」


そう言って、天井を仰ぎ見たワン。


花月は直感的に、英数字の名を持つ彼らを思い出した。


「使命……。あやつらって言うのは、僕らが倒してきた、上の階の人たちですか?」


尋ねれば、ワンは深く頷く。


「ああ。やつらには、帰るべき場所がない。ここでしか生きてはいけないんだ」


苦しげに吐き出すワンに、花月の方が胸が痛くなる。


彼には、深い人の心があるのだ。


人を思い、守ろうとする心が。


けれど、守るためにこんな施設に居るというのはどういうことなのか……。


「どうして……」


再び尋ねようとした花月の言葉を遮り、今まで黙っていた赤屍が興味もなさそうに呟いた。


「奇形児だから……ですか?」


何か知っているような赤屍の口振り。


花月は息を飲んだ。


その隣で、少し罰が悪そうに頭を掻く士度がぶっきらぼうに呟く。


「ちらっとだが、俺も見たぜ。あのエイトってやつ、アイツには目がなかった」


フードの奥に隠れて見えなかった顔を、士度はチラリとだが見たらしい。


まるでのっぺらぼうのように、目だけがなかったという。


「そんな…バカな……―――」


言葉を失う花月に頷き、ワンは声を落とし数字の名を持つ彼らのことを話し始めた。





 
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