白銀の魂
□その人の言う普通ってのは、周りから見ると存外普通じゃなかったりするもんだ。 第五話
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「………」
太陽もすっかり昇りきったある日の昼下がり。
沙耶は沈黙を零し、この家の家主を見下ろしていた。
「………………」
「ぐぉ〜〜〜……ふぐっ…――………ぐがぁあ〜〜〜……」
「………………」
「ん〜むにゃむにゃ……まだまだ食べられるアルヨ。もっと料理運んでくるヨロシ……!!」
「…………………………」
これは……普通なのか?
いかんせん、普通の暮らしというものをしたことがない。
暗殺者として育てられてきた為、通常の人間観などはなく、何が普通なのかわからない。
自分はどうしたら良いのだろうかと思考を巡らせるも、時間が無意味に過ぎていくばかりだった。
「………」
考え抜いた末に、沙耶はソファーに腰掛けじっとしていることにした。
今まで任務を与えられる以外に自分で動いたことがなく、することも浮かばないまま座り続けた。
外出禁止令が出ているため、外にも出られない。
この家の住人たちも未だに起きてくる様子を見せず、沙耶はただじっと座り続けていた。
そうしていること数刻。
しばらくして、玄関の方から活発な声が飛び込んできた。
「おはようございます銀さん、神楽ちゃん!あ、と……それから沙耶さんも!……って、なに、してるんですか?沙耶さん」
勢い良く入ってきて、未だに寝ている上司とその部下と、新しくこの家に住まうことになった沙耶のその異様な光景を見た新八は、思わずそう尋ねていた。
が、返されたのは素っ気ない素朴な返事。
「何もしていない」
感情のない無表情でそう言われ、新八は唖然とした。
「どうして銀さん達を起こさないんですか。まさか、ずっとそこに座って起きるのを待っていたんですか!?」
彼女がいつ起きたのかはわからないが、テーブルの前にはお茶ひとつなく、テレビさえつけられてもいない。
銀時たちは依然としてうるさいイビキやら寝言やらを叫んでいて、その中で静かに気配を殺す彼女は異質だった。
「……私は、命令を受けなければ何をすれば良いかわからない……」
無表情ながらも睫毛を伏せさせて、沙耶は何もない空中に視線を落とした。
そこで初めて、新八は沙耶が普通の暮らしを知らないということを知る。