白銀の魂
□ついつい眠くなるのは気を抜くことが出来てる証。第七話
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「そういや沙耶。お前、俺らを名前で呼んだことねえよな」
唐突な銀時の言葉に、新八と神楽がハッとする。
「そう言えばそうですよね」
「沙耶姐、私たちの名前わからないアルか?」
じっとこちらを見てくる三人に、沙耶は戸惑う。
「名前……」
呟いて、沙耶は少し思考したのち俯きがちに肩をすくめた。
「私たちには、名前が無かったから……どういう時に、どう呼べば良いのかわからない」
付けられた名前もコードネームのようなものばかり。
互いに名を呼び合うこともなければ、誰かに名前で呼ばれたこともない。
お前だの、アンタだの、人殺しだの……。
困ったようにそう溢せば、銀時たちは何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
「沙耶姐……」
うるうると瞳に涙を滲ませる神楽。
新八が重たくなった空気を一転させようと、努めて明るく説明を溢した。
「僕らが沙耶さんをそう呼ぶように、何か話を振る時や、聞いて欲しい話がある時に名前を呼ぶんですよ」
「聞いて欲しい話?」
小さく首を傾げる沙耶。
いまいちぱっとこない。
するとそんな沙耶の気持ちがわかったのか、新八は更に説明を付け加えた。
「はい。例えば、会話の初めとか……最初に伝えたい人の名前を呼んで、内容に繋げるとか、そんな感じですね」
やけに丁寧に教えてくれる新八に、まだ少しわからない部分もあった沙耶だが、とりあえず頷く。
「そう……わかった。気を付ける」
教えられた言葉を頭の中で反芻させて、沙耶は不意に思った。
思い返せば、こんなに沢山の時間を誰かと過ごしたり、はたまた会話したりしたこともなかったのだと、今さらながら気付く。
新八の話に耳を傾けながら、少しだけ睫毛を伏せさせた沙耶に気付き、銀時は飄々とした態度でひとつ提案した。
「沙耶。試しに俺らの名前呼んでみな」
普段会話の中で名前を呼び合っているから、誰が誰だか解るだろう?
そう言って、銀時はパッとこちらを見た赤い瞳を真っ直ぐ見詰めた。
「あなた達の、名前」
ひとりごちるように呟いて、沙耶はすぐ近くにいた新八が頷いたのを見て瞬きを返す。