白銀の魂

□けじめを付ける時は一対一で。でもたまには仲間を頼っても良いと思います。後編 第十話
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遠くで、顔も忘れたはずの両親の声が聞こえた気がした。


『おいで』


と、手招きをしているようにも見える。


何かに温かくくるまれているような、そんな感覚にやすらぎを覚えていた。


このまま、ずっとここに居たい。


そう、思った。


母だか父だかの声は優しく響いて、この胸に温もりを与えてくれる。


空間に浮かぶように漂う身体を、向こうに居る両親に向けて動かした。


両親はそんな自分を優しく迎えてくれて、やっぱり優しく笑ってくれた。


『久しぶりだね』


『元気だった?』


夢を見ているような現実味のない声で、両親が柔らかに囁いた。


それに頷いてみせて、ようやく触れ合えた肉親の温もりに身を委ねようと手を伸ばす。


けれど、両親はその手をやんわりと拒み、首を振って笑ったんだ。


『会えたのはすごく嬉しい……でも』


『お前はまだ、やるべき事があるだろう?』


母と父が、少しだけ寂しそうに……けれど、誇らしそうに微笑んだ。


『貴女を待っている人が居るでしょう?』


『もう戻りなさい。私たちには、またいつか会える』


肩に置かれた二つの手。


暖かい温もりに目を細め、離れたくはないと思ったが頷いた。


『さあ、お行きなさい。私の……私たちの愛しい娘』


『私たちはいつでもお前の側に居る。幸せになれ、   ……―――』


ぎゅっと、抱き締められた。


温かさは全身に広がって、心地よい波に揺らされる。


ふいに背中を押された気がして振り向けば、もうそこに両親の姿は何処にもなかった。


その代わりに聞こえてきた声。


必死で、それでいて願うような。


力強い声だった。


頭の何処かで両親の声が聞こえた気がした。


……みんなの元へお帰り……―――


胸の辺りがくすぐったい。


あの必死な声を聞いていたら、急にみんなに会いたくなった。


両親が呼んでいた名前とは違う名前を、必死で呼び続ける三人の声。


どうしようもなく側に居たいと思えた、二番目の家族たち。


「沙耶!おい沙耶っっ」


ああ、私の大切な人たちの声だ……―――



























「銀……神楽、新…八……」


震わせた喉からは、思っていたよりも渇いた声が出た。


うっすらと瞼を開けば、自分を囲むようにして額を寄せる三人の姿が目に飛び込んだ。





 
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