虚空の歌姫

□#03.センシティブ・ミュージック
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細い腰回り。


少しつり目がちだが、大きな濃いスカイブルーの瞳と、長い伏せられた睫毛。


銀髪からふわりと鼻腔をくすぐった香りが胸の辺りをズクリと唸らせた。


驚いた顔をしてこちらを凝視し、ほんのりと頬を赤らめている姿に思わず見惚れる。


初めて、人を綺麗だと思った。


熟れた唇が弱々しく動くのをボケッと見詰める。


「す…まない。ありがとう……早乙女アルト」


紡がれた音色にうっとりと耳を傾け、ややあってハッとした。


な、にやってるんだ俺……!?


ばっと慌てて手を離し、何故か気まずい空気に陥る。


どちらも無言になってしまい、どうしようかと両者が考え始めた頃、思わぬ来訪者が現れた。


「わ……ぁあ!!」


感嘆のような声。


ぱちくりと瞬きをし声のした方に視線を向ければ、見知らない女の子が口を大きく開けて立っていた。


「すっごい綺麗……」


なんて呟きが聞こえ、リヴィアは顔をしかめる。


綺麗?


いったい何を見て……―――


と訝しんだ時、女の子が駆け寄ってきた。


間近で見た彼女を凝視し、ふいにリヴィアは思い出す。


「娘娘の喧し店員……」


ボソッと呟いて、見覚えがあったことに内心で驚く。


「あの!!私、近道を探していたら迷子になってしまって……」


「迷子?どこに行きたいんだ?」


そう尋ねれば彼女は頬を赤く染め、嬉しそうにリヴィアに応えた。


「ライブ会場です!シェリルのライブを見に行くんです、私」


ああ、そういえばあの日そんなことを叫んでいた気がする。


「なら、そこの彼に着いて行けばいい」


「はあっ!?」


「えっ?彼……?」


名案だと思ったのに、早乙女アルトは目を見開きこちらを凝視した。


緑色の髪をした女の子はまたぱちくりと瞬きをして、リヴィアの促した早乙女アルトをじっと見ながら首を傾げる。


「なんで俺が!!」


「どうせこれからイベントに参加するんだろう?同じ道を行くなら、一緒に行けばいい」


論理的に話すリヴィアと戸惑いを隠せない早乙女アルトの横で、女の子が目をひんむき叫んだ。


「お、男の子ぉお!?」


「……っっ」


耳が、割れるかと思った。


「信じられない……女の人だと思ってた……」


「俺は男だ!!」


「っっ!!…喧しい……」


驚きに満ちた表情で早乙女アルトを凝視する女の子に顔をしかめながら、ふと時間が気になった。


そろそろライブが始まる。


そう考えた時、ふいに女の子の視線がリヴィアの方に向いた。


「……??」


何故こうもじっくり見られているのか訝しみ、その視線に応えてみると女の子がおずおずと口を開いた。


「あの、あなたも、男の子なの?」


早乙女アルトの後だからだろう。


制服を着ると目立たなくなる胸のせいもあるのだろうが、まさか男に間違われる日が来るとは思わなかった。


言葉を失い、思い切り顔をしかめてしまった。


その横で早乙女アルトが小さく吹き出したのを見つけ、多少イラっとする。


そうなると後は考えもせずに行動に移していた。


彼女の手をスッと取り上げ、なされるがままなのを良いことにそれを自分の胸に押し付けてやる。


「うぇえ!?」


「んなっ!?」


双方からそんな声が零れて、リヴィアはじとりと女の子を見詰めてやった。


「男に間違われたのは初めてだ」


からかうように言えば女の子の顔が一気に真っ赤に染まり、何故か早乙女アルトまで顔を真っ赤にしていた。


「ごっ、ごめんなさいっっ!」


「いや、良い。だけどそれよりも急いだ方がいい。もう少しで開演の時間になる」


手を離せば勢い良く頭を下げ謝った彼女に、時計をちらりと見せて急ぐよう促す。


途端に早乙女アルトも表情を変えた。


「まずい!!」


「早乙女、後は任せた。私は仕事に戻る」


何か言われる前にさっさと歩きだし、二人から離れて任務に戻る。


後ろで何か喚いていたが、無視してやった。


ホールに近寄るなんて勘弁願う。


適当に見回りをすることにして、時々上官に定期連絡を入れつつサボった。


しばらくして聴こえてきた歌声に少しだけ耳を傾け、銀河の妖精の声はそんなに悪くないとひっそり思った。


それでも爆音が耳に痛いから、すぐにイヤホンの出力を強にする。


静寂だけが、この身を安らぎに連れていってくれるのだ。







 
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