番外編

□意地悪な君
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「………」


「どうした?夢主。変な顔しているぞ」


「………」


「っ、くくっ。んなあからさまに嫌そうな顔をするなよ」


「………………」


隣で私の顔をいつまでもじっと見詰めてくるリク。


飽きもせず、かれこれもう30分は無視を続けているというのに、リクは楽しそうに私の側にいる。


私は怒っているんだからね!?


飄々と笑うリクを睨み付け、そっぽを向く私。


なのに、リクの方からクツクツと喉を鳴らし低く笑う声が聞こえてくる。


全く通じてない……。


だんだんムカムカしてきて、私は勢い良く立ち上がると、リクから離れようと踵を返し歩き出そうとした。


けれどその瞬間、右手首に感じた熱に思わず飛び上がり声を出してしまった。


「ひゃっ!?」


びっくりしてその熱の根元を見れば、涼しい顔をしてこちらを見上げてくるリクと瞳があった。


淡いグリーンの瞳が薄く細められ、口元には生意気な微笑が浮かんでいる。


上目遣いで見上げられ、少しドキリとしてしまった。


リクは、ずるい……―――


私の気持ちを知っているのかいないのか。


時折こうして触れてきては、子供じみた悪戯をする。


触れられた肌から熱が全身に回り、切なさに苦しくなるのに、リクにはそれが伝わらない。


きっとお友達止まりなんだろうな……。


と考えてしまうのは、リクがあまりにも飄々とし過ぎるから。


戸惑いがちにリクから瞳を逸らして、私はポツリと呟いてみる。


「歩けないから、手……離して」


素っ気なさ過ぎて泣きたくなるが、今はこんなことで動揺していてはダメだ。


何せ私は怒っているんだ。


リクの、あの何気ないだろう酷い言葉に……―――


『夢主、今好きなヤツが居るんだって?俺が協力してやろうか』


なによ、それ。


心が抉られた気分だよ。


それってつまり、私には興味ないから、私の恋路を手伝える……って訳でしょう?


あんなに側に居たのに、ちっとも伝わってなかったことが腹立たしい。


リク。


私は、怒っているんだからね……―――




いまだに手首に感じるリクの熱に、私は戸惑いながら瞳を背け続けた。


いつまでもその手を離そうとしないリクに、私から離すべく一歩足を踏み出してみた。


だけど、一層その手に力を入れられ、私の身体は簡単に転げ落ちた。


「うひゃっ!?」


「手伝ってやるって言っただろう?」


転げ落ちた私の身体は、引っ張られたことによりリクの腕の中に収まっていた。


リクの足と足の間にすっぽりと挟まれ、目の前にある厚い胸板に頭の中がチカチカと瞬く。


な、何が起こったの……!?


自分でもびっくりするくらい心臓が早く鼓動していて、もうまともに物事を考えられない。


「逃がさない。ちゃんと話せよ、聞いてやるから」


耳元でそう低く囁かれ、私の心臓はバクバクと唸りをあげる。


きっと私、今顔が真っ赤だ。


すごく……身体が熱い……―――


抱きすくめられるように、リクの片腕が私の腰にしっかりと回されて、私が逃げられないようにぐっと力を入れられる。


頭がうまく働かない。


何がどうなっているの……?


されるがまま、リクの腕の中で固まっていると、リクから楽しそうな笑い声が落ちてきた。


「くくっ。すごい心臓の音だな」


からかうように笑われ、私はハッとする。


いつの間にか、リクの手のひらが私の背中に押し付けるように当てられていて、心臓の音を確認しているような仕草をみせていた。


というか、これは完全に音を確認している。


恥ずかしさに、目頭に熱が溜まる。


視界が滲み、声も出ない。


やめてよリク……苦しくなるじゃない。


「離して……」


やっとそれだけを言って、非力な私には無理だとわかっていても、リクの腕の中から逃げ出そうと必死にもがいた。


するとリクは尚更腕に力を入れて、更にぐいっと私を引き寄せる。


肌が密着して、息が詰まる。


「嫌だね。………夢主?」


悪戯を含む否定の声が聞こえ、ついで訝しむように名前を呼ばれた。


私の身体が震えているのが伝わったのかもしれない。


ぎゅっと目を閉じて、必死で呼吸をして溢れだしそうな気持ちを落ち着かせる。


不審に思ったリクが、私を少しだけ離して顔を覗き込もうと視線を落としてきた。


それに慌てて目を逸らし、リクに顔を見られないように出来る限り首を反らした。


正直少し痛いくらい。


だけどリクは、空いているもう片方の腕を使って、あっさりと私の顔を自分に向き直させた。


「っ……」


さ迷う視線をリクがじっと見詰めてきて、私は自分の顔に熱が集中していくのを感じた。


目尻に涙が溜まっていく……。





 
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