番外編

□意地悪な君
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「っ……泣くなよ」


スッと目尻に指をあてがわれ、零れそうな涙を優しく拭うリク。


それさえも私に熱を与え、鼓動を速まらせ、切なくさせる。


どうして優しくするの……リク。


私の顔を見詰め、眩しそうに目を細めて、リクの口元からは涼しげな笑みが消えていた。


どこか切羽詰まったような、そんな表情。


「俺に触れられるのは嫌だったか?」


そう唐突に尋ねられ、私は眉間にシワを寄せる。


何を言っているの?


嫌なわけ、ないでしょう……?


そんな気持ちを込めて、じっとリクを見上げればリクの瞳がわずかに揺れた気がした。


とたん、リクの顔が私の肩にポスリと乗せられて、きつく抱きすくめられた。


「ああ、もう…。夢主の口から聞きたかったんだけどな……」


と、熱を帯びて掠れたリクの声が私の耳に直接響く。


熱く目眩がするほど甘いその声に、息が詰まって胸が苦しい。


「夢主が言わないなら、俺から言ってやる。……というかもう、俺が限界……」


なんて、リクに切なく囁かれてしまって、私の鼓動はどんどん強く脈を打っていく。


胸に込み上がるその切なさに、私は思わずリクの服をぎゅっと掴んだ。


すがるように、強く、強く……。


すると、リクのほうから息を飲む音が耳に届き、ついでリクが私の身体を更にきつく抱きすくめた。


「なあ……頼むから、拒むなよ……?」


掠れた、リクのすがるような声。


首筋にリクの吐く息を感じ、私はぎゅっと目を閉じリクの言葉を飲み込んだ。


拒めるわけないでしょう?


ねえリク、何が限界なの……―――


返事の代わりにリクの肩に頬をすり寄せ、少し怯えているようにも見えるリクに、私の方から身を寄せた。


リクの肩がピクリと震え、次の瞬間、苦しいほどに私を強く抱き締める。


うまく呼吸が出来なくなった私の耳に、熱い息が吹きかかる。


「っ……好きだ……夢主……―――」


掠れ過ぎて、ちゃんとは聞こえなかった言葉。


けれど、直接耳に届いたその言葉は、確かに私の中に浸透していって、また目頭を熱くさせる。


リクはいま、私を好きだと言ったの……―――?


「…う…そ……―――」


ひどく現実味のない言葉。


だって、リクは私の恋路を手伝うとか言って、そんな素振り見せなかったから。


だけどリクは、私の言葉に更に身体を密着させて、必死で私を強く抱きしめ続けた。


「嘘なもんか。俺がこんな風に触るの、夢主だけだったろ?」


言われて、私は思い返す。


カイリにも、セルフィーにも、確かにリクはこんなに込んだイタズラはしたことがない。


だけど、それは見たことがないというだけで、ちゃんとした確証が得られないもので……。


戸惑う私に、リクが辛そうに息をした。


「……やっぱり、信じられないか?」


泣きそうな、リクの声。


ああもう、疑うのも無意味だ。


そっと私を離そうとしたリクを、今度は私から抱きしめ返す。


逞しい背中に両腕を回し、顔を見て言う勇気がないから耳元に唇を寄せ、私は精一杯の気持ちをリクにぶつけた。


「…好き……」


「……っ!!」


「わ、私も……リクが好き……なの……」


すぐに信じられなくて、傷つけて、ゴメン。


そんな気持ちを込めて、私はリクを抱きしめる。


どうしてだろう。


好きって想いを言葉にしたら、途端に愛しさが増していく。


「っ………!!」


ぎゅっと、リクが私を抱きすくめた。


ギリギリと、身体が軋むほど。


触れたリクの肌が熱い。


耳にかかるリクの息遣いで、全身が沸騰するように熱くなる。


「……夢主……っ」


余裕のないリクの声に、私の気持ちはふわふわと浮かぶように高鳴る。


「好きだ。もう離さないからな」


熱く切なく響いたその声に、リクに答える代わりに私の方からもぎゅっと抱き締めた。


伝わるかな?


伝わるといいな。


私も、もうリクを離さないよ。


やっと手に入れたんだから。


ずっと欲しかった温もりなんだよ。


少し身体を離して、真意を探ろうと私を見つめてきたリクにぎこちなく笑ってみせた。


今の私の顔、多分また真っ赤になっているんだろうな。


リクが嬉しそうに、だけどイタズラに笑い返してきたから。


きっと真っ赤に違いない。


もしかしたら、私の気持ちなんてリクにはバレバレだったのかも知れない。


全部知ってて、あんなこと言ったんだとしたなら、リクは意地悪だね。


「ふ…。夢主、どうした?急に不機嫌な顔をして」


私が思わず顔をしかめたのをみて、リクはまた笑った。


「別に?ただ、もう遠慮は要らないんだなって思って」


覚悟しててね?


リク。


私、もう絶対リクを離さないから。


きっと、ずっと……―――






―番外編 〜意地悪な君〜

That's the end of it,
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