番外編

□欠陥
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島から離れていく船を見つめ、心は凍っていた。


゙捨てられだ……―――


その思いだけが私の感情を支配して、涙ひとつ零れなかった。


気だるい身体と、重い思考の中で。


私はただ小さくなって消えていく船をじっと見つめ続けた。


『ゴメンね。元気になってね……』


そう言って私をこの小さな島に置いていった両親。


疲れきった顔をして、私の頭を撫でたお母さんは、私と別れ船に乗り込んだ時、その顔に安堵の表情を浮かべていた。


重荷が落ちた。


そんな顔をしていたように見えた。


両親を乗せた船はついに水平線に消えて、肉親から切り離された私は、見知らない島と見知らない大人の男性に預けられた。


母の従兄弟だというその人は、何かしきりに言葉を投げ掛けてくれていたけれど、心が凍ってしまっていた私の耳にはちっとも届かなかった。


ワッカ。


と名乗ったその人に連れられるまま、私は小さな小屋へと案内された。


今日からここがお前の家だ。


なんて言われて、簡素なベッドとテーブルがあるだけの部屋を見せられた。


まるで病院の隔離施設のようだ。


と思いながら、私は促されるままに部屋に入った。


今日からここが、私の監獄になる。


きっと、お母さんもお父さんも居ないこの場所で、私は短い余生を過ごすのだろう……。


目の前が霞んで、息が苦しかった。


『元気になってね』と言ったお母さんの言葉とは逆に、私の身体はますます壊れていくように感じた。


欠陥だらけのこの身体。


これから、あとどれくらいの時間に耐えられるのだろうか。


隣でワッカと名乗った男が眉間にシワを寄せていた。


私という重荷を、疲れきった両親の代わりにその身に背負わされ嫌気が差しているのだろう。


このまま海に沈んで重荷から解放してあげても良いけれど。


……ゴメンなさい、もう、身体が思うように動かないんだ。


その場に崩れ落ちた私を、ワッカという人が慌てて抱き上げた。


暖かくて、優しい温度が私をベッドまで運んだ。


迷惑だと思っているだろうに、ヘラヘラ笑って私を見るワッカがひどく嫌な大人に見えた。


そして何より。


『大丈夫か?』というワッカの、偽りだったとしても優しいその言葉にひどい嫌悪感を覚える自分がすごく嫌だった。


返事もせずにベッドに潜り込み、ズキズキと痛む胸を押さえて眠った。


きっとワッカもすぐに私に疲れてしまう。


私はまたどこかへ捨てられて、いつか闇に溶け込むの。


ワッカが何かを呟いて、部屋を出ていく気配を感じた。


ドアが閉まる音を遠くで聞きながら、私は襲いくる吐き気と頭痛に瞳を閉じた……。





 
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