番外編
□KH番外編
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〜番外編〜
『]V機関』
ある日の夜。
珍しく任務が早く終わったセラたち。
そしてさらに珍しいことに、リラックスルームには数人のメンバーが集まっていた。
「ゼムナスから贔屓されてるって言う新人はアンタか」
ゼクシオンが忌々しげにそう言ってセラを見遣り、セラはどうでも良さそうに彼を一瞥するとすぐに別の場所へと視線を戻した。
「わお。セラ、ゼクシオンを無視だ」
面白がるように口笛を吹き、アクセルがソファーから少し身を乗り出す。
ロクサスがやや嫌そうに顔をしかめて、シオンは無表情にそれらを見ていた。
「……大した新人だね。まあ良いよ、別に。僕も君に興味はないしね」
「そうか。なら、もう用はないだろ。放っておいてくれないか」
もうゼクシオンを見さえせず、セラは一点を見つめ無表情に肩をすくめて返す。
気分を悪くしたのか、ゼクシオンはそんなセラに舌打ちを落とすと何処かへ去ってしまった。
堪えきれなくなったアクセルが吹き出し、ロクサスも少し愉快そうに笑い出す。
「ゼクシオンの顔見たか?」
なんて会話をするアクセルとロクサス。
そんな中でシオンはなおも無表情を貫き、セラから自分に向かって伸びてくる手をじっと見据えた。
空中をさ迷い、選択を躊躇うように揺れるセラの腕。
それを尻目に見ながら、アクセルが手持ちのものを無意味にシャッフルする。
と、そこでセラが選択を決め、スッとシオンから差し出されているものを一枚抜き取った。
恐る恐るひっくり返すと、ホッと安堵の息をつく。
シオンは緊張の糸が切れたように笑い出し、アクセルは微かに眉をひそめる。
そして次は『どうぞ』とばかりにロクサスに向き直り、セラは手持ちのものを小さく差し出した。
そんな四人の様子を面白がるように見ていたデミックスだが、ふとセラの手元とロクサスの手の動きを見て、こっそりニヤリと笑った。
ロクサスはセラがシオンから抜き取り、安堵した様子を見せたそれを狙って選択を決める。
躊躇も迷いもなくそれをセラの手持ちから抜き取り、とたんにピクッと固まった。
素知らぬ顔で次へ促すセラとシオンを目を丸くしながら見遣って、ロクサスは悔しそうに手持ちのものをシャッフルさせた。
アクセルもそれらの意味を理解するなりニッコリ笑い、ロクサスの目をじっと見ながら選択の幅を狭めていく。
そしてスッと抜き取ったそれをチラリと見て、自分の手持ちのものと見比べ肩をすくめてみせる。
「俺の上がり札、いったい誰が持ってるんだよ」
と、誰にも聞こえないような声で呟くアクセルにシオンが自分の手持ちをじっと睨み、チラリとロクサスを見る。
視線を向けられたロクサスは、向こうでチェスをやっているジグバールとルクソードに気を取られていて、シオンからの視線に気付かない。
「ふむ」
とひとつ頷いて、シオンは考えることをやめ、すぐにアクセルから差し出されているそれらに手を伸ばした。
適当なものを掴み、スッと自分の手持ちに加えていく。
アクセルと同じように手持ちのものを見比べたシオンだったが、こちらも外れだったようだ。
と、次はセラの番だ。
ここにきて、黙ってそばで見ていたデミックスが笑いだす。
「お前ら、ババ抜きごときに良くそんなに夢中になれるよな」
と、少し小馬鹿にするようなデミックス。
だが、そのババ抜きごときに四人は思いの外真剣である。
ともすれば負けた誰かが泣いてしまうようなほど、真剣だ。
「黙っていろデミックス。少しでも誰がジョーカーを持っているだなんて言ったりしたら、海の底よりも深い場所に沈めてやるからな」
言いながらアクセルからカードを引いたセラ。
相変わらずの完璧な無表情で、捨てられるものはなかったとシオンに手持ちのカードを差し出す。
真正面でアクセルがデミックスに牽制をかけた。
「セラの言う通りだデミックス。見るだけに留めろよ?カード見た瞬間笑い出すのもアウトだからな。記憶したか?」
シオンはセラからカードを抜き取りながらデミックスを見る。
「邪魔したら承知しないから。これ本気」
珍しく露にされたシオンからの殺気に冷や汗を流し、デミックスは大人く頷いた。
シオンは当たり札を引き、同じ数字のカードを二枚捨てると「はい、ロクサス」と、ロクサスに札を差し出した。
「ってシオン、俺が引いたら上がりじゃないか……」
たった一枚になったシオンの手札を見遣り、ロクサスが落胆に肩を落とす。
「い〜ち上がり〜っと」
ロクサスが最後の札を引いたことでシオンがゲームから脱出し、残るはセラとアクセルと三人。
シオンからもらったカードは何のペアにもならず、ロクサスの持ち札は増えてしまった。
「はい」
とアクセルに札を差し出して、ロクサスは自分の番が再び巡って来るのを待つ。
「お、当たり来た」
とアクセルが嬉々としてカードを捨てて、残り二枚をセラに差し出した。
無言でカードを抜き取り、セラもペアを引き当てカードを捨てる。
これでアクセルは手持ちのカードが一枚、セラが残り二枚となった。
そんな中で、ロクサスは四枚も持っている。
勝負は緊迫していた。
外野であるはずのデミックス、勝負から離脱したシオン。
この五人を、とてつもない緊張感が襲う。
「早く引け、ロクサス」
二枚あるカードをロクサスの前につき出して、セラは無表情を貫いた。
今は、持っている本人にしか誰がジョーカーを持っているのかわからない。
ロクサスは半ば諦めたようにセラからカードを引き抜いた。
が、久々の吉が出た。
「やった!ペアが出た!!」
ポイ、ポイ……と、持ち札を捨てたロクサスもまた、残るカードは二枚となった。
さあ、ここからが本番だ。
ロクサスの二枚のうち一枚がジョーカーなのか。
はたまたセラかアクセルどちらかが持っているのか……。
ロクサスからカード引いたアクセル。
瞬間、ガタッと立ち上がった。
「っっっしゃあああっ!!に〜抜けたぁっ!」
グッとガッツポーズを決めたアクセルを見遣り、瞬間、全員がわかってしまった。
―…ロクサスがジョーカーを持っているんだな。
一枚しか持っていないセラに対し、二枚あるのにペアになっていないロクサス。
これはもう、セラの実力次第……―――
「ロクサス、カードを引かせろ」
いやに冷静に、セラはロクサスを見る。
当のロクサスは額に冷や汗ダラダラである。
セラがどのカードを選ぶかで未来が決まる。
セラの指先から目が離せないロクサスを、セラはじっと見詰めていた。
ヒラリ、ヒラリと指がカードの間を揺れて、ふいに一枚のカードを掴んだ。
グッと引き抜く素振りを見せた次の瞬間。
セラはそれとは別のもう一枚のカードを一気に引き抜いた。
「悪いなロクサス。私も負けたくはないんだ」
どんな勝負や戦いにも、負けるつもりは一切ない。
そう不敵に微笑んで、セラは自分の手持ちのカードと共に『ババ抜き』という戦場から離脱した。
「う………っっっそだろ!?何っ?最後のあの迷い方何!?」
動揺を隠せないロクサスに、アクセルがニヤリと笑った。
「わかりやすい顔してるからだよ」
「ロクサス、ジョーカーばっかり見てたし」
「セラはお前の反応見て選んでたぞ。弱いんだな、ロクサス」
シオンやデミックスにまでロクサスを笑い、ロクサスは頭を抱えて項垂れた。
「マジかよ……」
呟いて、目に涙まで浮かべている。
「じゃ、決まりな。これから一週間、アイスは全部ロクサスの驕りってことで。記憶したか?」
「きっちり働けよロクサス。私たちの分まで……な?」
「わぁい、これで楽してアイス食べれるね。ロクサス、可哀想だけど」
「お前らアイスを賭けてゲームしてたのかよ」
なんて会話が繰り広げられる中、ロクサスは絶望に暮れるのだった。
この先一週間、ロクサスが本当に三人分のアイスを買わされたのは言うまでもなく。
そしてさらに。
じつはこの後にデミックスも加え五人でゲームをし、デミックスが混じったことで全員が完膚無きまでに彼に潰されたのはまた別の話。
そして一方では、ルクソードがジグバールとのチェスを終え、ワイワイ騒ぐ後輩たちをひっそり眺めてこう言ったとか。
「あいつらそろそろ俺にカードを返せよっての……」
もうかれこれ数時間ほど経つだろうか……。
ルクソードの愛用カードは、彼らの遊び道具として使われ帰ってくる様子は一向に伺えない。
「ありゃ俺の武器でもあるんだがなぁ?」
とため息を吐き、楽しげにカードを交わす彼らからオモチャを取り上げるのも気が引け、ルクソードはサイクスに呼ばれ、武器も持たずに任務へと向かうのだった。
そしてさらにさらに、ゼクシオンはひとりその様子を羨ましそうに眺めていたとかいなかったとか……。
かくして、]V機関の1日は明けていくのだった。
GETBACK A MEMORYS
〜]V機関、ある日の日常〜
完