番外編

□空気の読めない幼馴染み
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私の幼馴染みはモテる。


そりゃあ確かに、背は高いし顔は整ってるし、性格も明るくて一緒に居ると楽しい人だから、男女問わず人気者なのは良く分かる。


だけど、女の子からは異様に好かれている。


彼の幼馴染みというだけで、周りの女の子たちからイヤガラセのようなものを受けたり、面倒なお願いをされたり、挙句の果てには憎まれ恨まれ妬まれて。


どうして誰も私を放って置いてくれないのだろうかと悩める日々。


いつだったか、数少ない友人が面白がるようにこう言ったのを思い出す。


『モテる幼馴染みが居るのは気分良くない?』


はあ?


ありがた迷惑極まりないわ!


そう返したのも記憶にある。


いやだって、ほら。


今日もまた、廊下の脇で人だかりをつくっては笑っているアイツが居る。


もう下校時間だって言うのに、よくもまあ疲れもせずはしゃげるものだと溜め息を吐いてやりたい。


男女入り乱れで彼の周りに群がる同級生やら下級生やら上級生やらを眺めて、私はそれらから遠ざかるように玄関へと歩き始めた。










another story,
〜空気の読めない幼馴染み〜









「あ、夢主!」


名前を呼ばれて、溜め息を吐く。


やっぱり見つかった。


ここで無視するわけにもいかなくて、私はチラリと声の主の方へ振り返る。


赤い髪を跳ねさせて、楽しそうに笑う幼馴染みが軽く手を振っていた。


「もう帰るのか? じゃあ俺も一緒に、」


「せっかく先輩達が来てくれてるんだから、もう少し居れば? 私、一応急いでるから先帰る」


アクセルの言葉を遮って、口早にそう告げた私はまた競歩で歩き出す。


お願いだから、いい加減空気を読めるようになってよ・・・・・・。


こんなにも沢山の人がアクセルに会いに来てるのだ。


わざわざ、学年を超えて。


そんな彼を私が掻っ攫ったらどんな空気になる?


そんなもの、これまでに死にたいと願うほど経験していて、わかりきっている。


男子生徒はまだいい。


『お前ら仲良いよなー』くらいで終わらせてくれるから、悩む必要なんかない。


問題は・・・・・・───


「じゃあ後でお前ん家行くわ! 昨日のゲームの続きしよう。記憶したか?」


「・・・・・・」


「あ、おい! 夢主ー??」


この最高一等級に空気が読めないアホだ。


無視して、もはや走る勢いでその場から逃げ出した。


背中にグサグサと刺さる視線はおそらく、女子達からのものなんだろう。


誰かとすれ違った時、微かに舌打ちのような音が聞こえた気がしたのも、多分、気のせいなんかじゃなくて。


そんな色んな恐怖から、私はただひたすらに、走って走って家へと逃げ込んだのだった。






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横たわったベッドの上で、机に立てかけられた写真を眺める。


楽しそうに手を繋いで笑っている二人の少年少女。


家が隣だから、物心が付く前から一緒に育ってきた。


私もなかなか負けん気が強かった方で、アクセルとは良く殴り合いのケンカをしたり、追いかけっこをして転んで大怪我をしたこともあるほど仲が良かった。


いや、仲が良いと言えば今もそうかもしれないが、関係は少しずつ歪んで来ているように思える。


その発端はアクセルなのか、私なのか。


ああでも、アクセルは私に対して昔のままか。


隣の幼馴染みのレッテルが貼り付けられていて、相も変わらず構い倒しに来る。


別にそれが嫌なわけではないけれど、むしろ気兼ねなく遊べるから私も楽しいのだけれど。


後々のことを考えるとやっぱり怖くて避けてしまう。


いつからこんな風に、アクセルを避けるようになったんだろう。


写真の中で楽しげな二人を見つめ、考える。


幼稚園までは特になんの問題も無しに、アクセルと幼馴染みをやれていた。


小学校低学年の時も、まあまあ無事だった。


そうだ。


思春期を持ち始める小学校高学年からだ。


私の学校生活は、その頃から急速に悪化したのだ。


幼馴染みで仲が良いとの評判は、いつしか妬みやイヤガラセへ変わった。


クラスで仲の良かった女の子が居て、その子がアクセルを好きだと言ったのだ。


『協力して』と言ってきた彼女に、私は深く考えもせずに軽く頷いた。


だけども遊びたい盛りのアクセルが恋路に興味などあるはずかなくて、協力どころか私が邪魔者のような存在になってしまっていた。


『ねえアクセル、今日一緒に帰ろう?』


そう可愛らしく首を傾げて笑った彼女に、アクセルの阿呆はこう返したのだ。


『俺、夢主と帰るから』


な!夢主!


と、バカみたいに明るい笑顔で手を振られて、私はその時初めて人が怖いと感じた。


アクセルに断られ、そのまま私へと手を振るバカに目を見開いた女の子。


その表情は次第に暗く重くなっていき、ついには殺意にも似た光を灯して私を睨みつけたのだ。


この件を境に、私はクラスの女の子達から酷い仕打ちを受けた。


アクセルを好きだと言った女の子を筆頭に、仲良くしてくれていたはずの子たちが私を無視し始めたのだ。


さらには小さなイヤガラセや、陰口とか。


アクセルにバレない程度に仲間外れにされた。


『夢主は裏切り者』


『夢主は嘘吐き』


『幼馴染みだからって、ブスのくせに良い気になってる』


なんて、あることないこと囁かれて。


晴れて私は小学校で浮く存在になってしまったわけだ。


その件をアクセルは一切知らないのは、クラスが離れていたことと、女の子達がいかに上手く隠してきたのかということ。


それから、私がいかにそれらを知られたくないと願い、黙っていたおかげ。


アクセルに知られるのは、どうしてだか嫌だった。


そんなこんなで中学でも似たような問題が相次ぎ、私はアクセルから少し遠ざかるようになった。


本人は気付いていなさそうだけれど。


クラスメイトに机の中を荒らされた時とか、酷く憂鬱な気持ちになったのは今でも鮮明に思い出せる。


高校は違うとこへ行こうと思っていたのに、アクセルは着いてきたし。


また卒業するまで、女の子達からの仕打ちに耐えなければならないらしい。




 
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