番外編
□空気の読めない幼馴染み
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いつの間か寝てしまっていたみたいで、気付けば窓から黄昏色の光が差し込んでいた。
今はいったい何時なのだろうかと、上手く働かない頭でぼんやり考えていると、聞き慣れた声が私を呼んだ。
「起きたか、夢主」
「・・・・・・アクセル、なんで居るの」
「後で来るっつったろ?」
「・・・・・・」
何も寝てる時に来なくとも・・・・・・。
とか思ったけれど、大人しくベッドにもたれて漫画を読んでいたアクセルに文句は言えない。
私が気分が乗らずにアクセルを放置していても、ひとりでゲームして喧しいそんなアクセルが。
一応は寝ている私に気を遣って、静かに漫画を読んでいたのだから。
そんな小さな気遣いが、嬉しいと思った。
まあ、普通ならばありえない状況なのだけれど。
「飲み物取ってくる。先にゲームやってて」
「わかった」
なんて言うやりとりは、この十数年間でどれだけ繰り返してきたのかわからない。
それくらい、私とアクセルは一緒にいるのが当たり前になっていたのに。
出てきた部屋のドアを閉めて、こっそりとため息を落とす。
別に、私がアクセルに対して恋心を抱いているわけではないのだから、誰も敵だなんだと気にしなければいいのに・・・・・・と。
むしろ、私の好みはアクセルとはかけ離れているし、アクセルも恋をすると言う精神を持ち合わせていない。
どうしてみんな、私に敵意を向けるんだろう。
キッチンへ向かいながら考えてはみても、そんなこと、自分じゃ何の答えも見つからなかった。
冷蔵庫からシーソルトソーダとお茶を取り出して、氷の入ったコップに適当に注ぐと部屋へ戻る。
アクセルは差し出された飲み物に喜んで、俺もお菓子持って来たんだ。と、ゲームをかたわらに、ふたりでスナック菓子をつまむ。
ゲームは好きだけど、操作が苦手な私。
いつの頃からか、購入したゲームのほとんどをアクセルが代わりにやってくれるようになって、今日も私は眺める側に回っている。
特にFFシリーズというRPGが大好きで、ストーリーにはいつも感動させられて、アクセルも嬉々としてプレイしてくれた。
そんなRPGの物語を眺めながら、ぼんやり考える。
アクセルはきっと、誰にだって優しいに違いないんだと。
アクセルに似たキャラクターが主人公達とぶつかりながらも、さりげなくフォローしている姿を見て、そんなことを思った。
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「女の嫉妬は怖いね」
「というか、醜い?」
翌日のお昼休み。
唐突にこぼされたその言葉たちに、口に含んでいた緑茶を吹き出しそうになった。
「急に何? ナミネ、シオン」
尋ねれば、ふたりは呆れたように私を見つめる。
「そろそろ怒っても良いんじゃないのかな」
「そうだよ。夢主、何も悪くないじゃない。幼馴染みなだけで、別にアクセルを独り占めしようとしてるわけでもないし」
「それで夢主が多数に責められるの、どうかと思うのよね」
「ホントそれ」
不機嫌極まりないといった様子で交互にぼやく彼女たち。
ふたりは、私の数少ない友人、ナミネとシオンだ。
机の中を荒らされた時側にいて、ふたりは犯人達と同じクラスメイトなのが残念でたまらないと言いながら、一緒に処理を手伝ってくれたのだ。
「私も納得はいかないのだけど・・・・・・アクセルはあの通り人気者でしょう? なんか、仕方ないのかなぁって、最近は思うようになってきた」
紙パックの緑茶を置いて、ひとつため息を落とす。
最近は本当、ため息ばかりだ。
「なんで夢主、こんなに自信無いかなぁ? 夢主だって男子からの人気は高いのに」
「なにそれ、聞いたこと無いよ」
首を傾げながら眉をひそめるシオンに、私はまたまた吹き出す。
ナミネが肩をすくめて小さく息を吐いた。
「無自覚なのが、夢主の良いところでもあるんだろうけど。だけど実際、良く聞くよ? 夢主って可愛いよなって言ってる男子達の声」
「んなバカな。それだったら、シオンやナミネが可愛いって囁かれてる方がよっぽど聞くけど」
と言った私の言葉を、ふたりは「それは当たり前」と一刀両断した。
それなりの努力をしているし、醜い嫉妬なんてしたことないからね。とこぼすふたりに、思わずあたまが下がりそうになる。
だけどそもそも、私の噂なんてアクセルの腰巾着だの媚びを売ってる嫌な女だの、そんな耳を傾けたくない噂ばかりなんだよなあ。
ポツリとそう呟けば、またまたふたりはため息をこぼして眉をひそめた。
「アクセルのせいで夢主が暗く見えるんだよ、きっと」
「しばらく距離、置いてみたら? こんなんじゃ夢主、恋のひとつも出来ないんじゃないの?」
「・・・・・・こ、こい?」
「「そう、恋 」」
揃って響いたふたりの声に、思わず引いてしまう。
そう言うものに興味がなかったから、考えたこともなかったなぁ。
ふむ、とひとつ考えて、私はふたりを見やり微笑む。
「うん、遠慮しとく」
恋だなんだと騒ぐのは、もう少し後で良い。
面倒なのは、アクセルの取り巻きからのイヤガラセだけで充分過ぎるほど有り余っている。
「今はナミネやシオンと一緒に居られる方が嬉しいから」
少し照れてしまうのを隠せないままにそうこぼせば、ナミネとシオンは目を丸めて、ついで笑ってくれた。
「いつでもお嫁においで」
「むしろ私が夢主の恋人になってしまいたい!」
と、暴走するふたりをなだめるのはちょっとだけ大変だった。
私を解ってくれる友人が居る。
今はそれだけで充分に思えた。