01/31の日記
02:44
無言の言葉
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真っ白な世界。
空中に漂う羽根。
ソレを静かに眺めて、私は自分でも呆れるほど冷静に「コレは夢だ」と理解していた。
どうしてそう理解したのかはわからない。
けれど感じたその傍観的思考は正しいもので、私はただただ立ち尽くしていることに徹した。
何が起こるのか・・・・・・何が待っているのか。
そんな思考も浮かんできた。
やがて目の前に現れたソレに、「嗚呼・・・・・・」と声を漏らす。
そうか、この夢は願望の具現化だったのか、と。
そこに現れたのは、狂おしいほどに求めていたモノだ。
もう二度と触れることなど出来ないはずのもので、もう二度と・・・・・・その姿すらおがむことも出来ないモノ・・・・・・ーー
「・・・・・・ 」
言葉にならなかった。
夢の中だと言うのに、手足が、喉が、鼓動が震えた。
いっそ叫んでしまいたい。
罵って、蔑んで、怒ってやりたい。
だけど心が喚いている。
会いたかったと、もう一度その姿を見たかったのだと、血を流すように溢れさている。
「・・・・・・会いたかった・・・・・・ーー‼︎」
結局、音になったのはその言葉。
訛りのように重かった足を前へ前へと突き動かす。
叶うことのなかったはずの再会は、なんの悪戯もなくあっさりと叶った。
こうして、夢の中で。
飛び込んだその腕の中で、私は泣きすがる。
「何故、どうして、今わたしの側にアナタは居ないの・・・・・・‼︎」
目の前には居るのに、現実には居ないのか。
こうしてぬくもりを感じるのに、どうして心は乾いたままなのか・・・・・・。
苦しくて、悲しくて、ただひたすらに、泣きたかった。
目の前のW彼Wは困ったようにただ笑った。
いつかの私の我儘に苦笑した時と同じ顔で、肩を小さくすくめて優しく、そっと・・・・・・。
たまらなかった。
その微笑みに、私の悲しみなんて一瞬で消え去った。
「本当にひどい人・・・・・・アナタはそうやってなんでもはぐらかすんだわ」
私ひとりを置いて居なくなってしまったことも、勝手に先へ逝ってしまったことも・・・・・・全部。
それでも許してしまいたくなるのは、こうして会いに来ようとしてくれるから。
夢の中・・・・・・全て自分が思い描く願望と言えるかもしれない。
それでもこの瞬間だけはホンモノだと感じた。
何故なら、自身の願望だけならば、W彼Wが決して苦笑なんかせずに謝ってくるものだと知っているからだ。
夢の中でだけ叶えられた、もう一度会いたいという願い。
W彼Wは決して言葉を発さない。
喋るだけの力はないのかもしれない。
それでもこうして会いに来てきくれた。
それならもう、それで満足だ。
「ありがとう、もう、大丈夫。もう・・・・・・アナタを追いかけようだなんて考えない」
先を見つめ、歩いていこう。
だけど最後に、もう一つだけ我儘を言うのは許されるだろうか?
これきりだ、コレで最後なのだ。
このぬくもりも、W彼Wが彼として会いに来てくれるのも、恐らく・・・・・・この夢の中でだけ。
「お別れのキス、それくらいはねだっても良いんでしょう?」
尋ねれば、W彼Wは一瞬だけ目を丸めた。
そしてややあって、心底呆れたように笑い出す。
だけどその笑みは慈愛に満ちていて愛情さえ感じた。
無言のままW彼Wは私の頬をそっと撫でた。
ともすればクツクツという笑い声が聞こえそうなほどに笑いながら。
静かに近づいて来た顔、視線、吐息。
目を閉じれば唇に温かくて懐かしい、愛しい感触が触れた。
触れるだけのキス。
優しいソレは、私に幸福をたっぷりと注いでくれた。
だけど・・・・・・ーー
「やっぱりお別れの言葉は言わせてもくれないのね・・・・・・」
朝陽が目に滲みた。
明る過ぎて目頭が痛んだのか、涙が溢れた。
何も言わないまま、ちゃんとサヨナラも言えないまま、あの人はまた何処かへ行ってしまった。
きっともう二度と夢でも会えない。
夢に見ることは出来ても、触れ合うことは二度と叶わない。
なんて酷い人。
なんて愛しい人。
「嗚呼・・・・・・ーー」
と、また息が溢れる。
追い掛けたくても、もう追いかけられもしないと悟ってしまったのだから、仕方もない。
愛しい人、生涯でただ一人愛した人。
アナタが望むのなら、生きましょう・・・・・・もう少し、この世界で、アナタの迎えを心待ちにしながら、ゆっくりと・・・・・・ーー
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