海よ、空よ
□お誘いと接触
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『海軍も海賊も、海も
大嫌いよ』
ひどく辛そうな顔でそう言い残し、彼女は宿の中に消えた
誰もいなくなった崖の上は、穏やかな波の音しか聞こえない
「……大嫌い、か
そうは思えねーなァ」
海賊が嫌いなら、なぜ俺に酒なんかくれたんだ
海が嫌いなら、なぜ今ここから海を眺めてたんだ
「やっぱ変な女」
ふっと楽しげに口元をゆるませ、ローも宿の中に戻った
***
『……。』
気晴らしに、と外に出たが、思わぬおまけがついてきた
昔の話を他人にしたのなんて、かなり久しぶりだ
しかも相手は海賊
『……ログが溜まるにはまだ日数がかかる…』
お願いだから、バローにだけはバレないで
バレたらそこで、私の負け
バローとの約束を私が破った形になる
海賊がいることを黙っていれば、島民を“罰”という名目で奴隷にする
それが、バローと交わした約束だ
今までは、島を荒らした海賊だけを報告していた
だが今回は違う
トラファルガーは何もしていないし、する気も無さそう
だからケイトと協力し、ハートの海賊団のことは隠すことにした
『……お願いだから、何も起こらないで』
祈るようなつぶやきは、夜の静けさに溶けていった
***
「――…あ、船長おかえり〜」
「………起きてたのか」
中に入るとルイはすでに自室に戻った後で、まだクルー達は眠っていた
そんな中声をかけてきたのは、シャチとペンギン
ローは二人が起きてたことに驚いた
「船長」
ペンギンが静かに声を発する
ローは刀をソファーの横に立て掛け、余裕そうに口角を上げたままペンギンを見た
「ルイに惚れたんすか?」
「……………何を言うかと思えば…
くだらねーこと聞いてんなペンギン」
「あなたにとってはくだらなくない話だと思いますが」
至極真面目な顔をするペンギンに、ローはどう答えるべきか迷った
「……まァ、いい女だよな」
ふっと怪しげに笑い、目を閉じた
ペンギン達はそれ以上は追及してこなかった
***
翌日
バーではまた海賊達が至るところで眠っていた
その間をぬうように歩き、海軍基地へ出勤した
「大将、黄猿さんからだ」
『…………この文書は本当に私宛てなのですか?
何かの間違いでは?』
基地につくなりバローに呼び出され、仕方なく彼の部屋を訪れる
すると、一通の文書を渡された
差出人は、大将黄猿
「間違いではない。お前宛てだ
お前を自分の補佐に欲しいという内容だ
あとは自分でそれを読め」
『………。』
話が飛躍し過ぎている
大将黄猿はバローの直属の上司
今までも何度かバローに連れられて、彼と対面したことはあった
だが、その時はあくまでも“バローの側近”
大将の目に留まるはずがない
なのに、なぜ
『“貴殿はその若さにして大佐の地位を手にしている。私はその実績を大いに評価している
そこで、ぜひルイ大佐には海軍本部に赴いていただき、私の補佐役として一緒に働いて頂きたい”
……………、嘘だ』
「嘘ではない」
ボソッとつぶやいた言葉はバローにはっきり届いていた
こんなへんぴな島のしがない海軍大佐の私が、海軍本部の大将、黄猿にヘッドハンティングされるとは
世の中どう転がるか分からないものだ
『………時間をください』
だが、タイミングが悪い
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