海の記憶
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ドン、という軽い衝撃とともに、手に持っていた本が床に落ちる
それに気づくと同時に「あっ」という、慌てたような声も聞こえた
『ごめんなさい、大丈夫ですか?』
俺が手を伸ばすより先に、細い手が本を拾い、俺に向ける
手をたどって相手の顔を見て、思わず言葉を失った
『すみません、初めて図書館に来たからキョロキョロしちゃって…
はい、どうぞ』
にこ、と小さく笑って落ちた本を渡す彼女のその笑顔に、目が惹きつけられて離せない
まさか、こんなところで会うなんて
大学の図書館、その一角
ここには2年近く通っている
その図書館にいるということは、彼女も同じ大学の学生のはずだ
この2年間、まったく彼女には会えなかったのに、なぜこのタイミングで?
『ぶつかっちゃってすみませんでした
じゃあ、私はこれで』
ぺこ、と頭を下げ、彼女が離れようとする
背中を向けたその瞬間に、腕を取った
『えっ』
「名前は?」
ようやく見つけた、俺の大切な人
*
「ルイ、こっちよ」
『ごめんロビン、お待たせ』
荷物を椅子に置き、自分はすぐ隣の椅子に腰を下ろす
「あなたが遅刻なんて珍しいわね
図書館で本を返すのに手間取ったの?」
『ううん、本はすぐ返せたんだけど…』
「だけど?」
ロビンと大学内のカフェテリアで待ち合わせて、席に着く
ふぅ、と息を吐く私にロビンが首を傾げた
『本を返したあとに少しだけ他のフロアも見てたの。蔵書量が知りたかったし
それで、キョロキョロしながら歩いてたから男の人にぶつかっちゃって』
「………絡まれた?大丈夫だった?」
『絡まれた…っていうのかな、大丈夫は大丈夫なんだけど…
なんだか不思議な人で、呼び止められたの』
「?」
ルイが首を捻る様子に、ロビンも首を傾げた
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