海の記憶

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ドン、という軽い衝撃とともに、手に持っていた本が床に落ちる


それに気づくと同時に「あっ」という、慌てたような声も聞こえた










『ごめんなさい、大丈夫ですか?』




俺が手を伸ばすより先に、細い手が本を拾い、俺に向ける

手をたどって相手の顔を見て、思わず言葉を失った






『すみません、初めて図書館に来たからキョロキョロしちゃって…

はい、どうぞ』



にこ、と小さく笑って落ちた本を渡す彼女のその笑顔に、目が惹きつけられて離せない


まさか、こんなところで会うなんて



大学の図書館、その一角

ここには2年近く通っている
その図書館にいるということは、彼女も同じ大学の学生のはずだ

この2年間、まったく彼女には会えなかったのに、なぜこのタイミングで?





『ぶつかっちゃってすみませんでした

じゃあ、私はこれで』




ぺこ、と頭を下げ、彼女が離れようとする

背中を向けたその瞬間に、腕を取った





『えっ』


「名前は?」






ようやく見つけた、俺の大切な人
















「ルイ、こっちよ」

『ごめんロビン、お待たせ』



荷物を椅子に置き、自分はすぐ隣の椅子に腰を下ろす



「あなたが遅刻なんて珍しいわね
図書館で本を返すのに手間取ったの?」

『ううん、本はすぐ返せたんだけど…』

「だけど?」




ロビンと大学内のカフェテリアで待ち合わせて、席に着く

ふぅ、と息を吐く私にロビンが首を傾げた







『本を返したあとに少しだけ他のフロアも見てたの。蔵書量が知りたかったし

それで、キョロキョロしながら歩いてたから男の人にぶつかっちゃって』

「………絡まれた?大丈夫だった?」

『絡まれた…っていうのかな、大丈夫は大丈夫なんだけど…
なんだか不思議な人で、呼び止められたの』

「?」




ルイが首を捻る様子に、ロビンも首を傾げた



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