日吉

□戸惑い
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「あんな、日吉やって男やで?
そら好きな子に構ってもらわれへんかったら寂しくもなるやろ」


『……寂しいって日吉くんが言ったんですか?』


「いんや?言ってへんよ

けどな、日吉が寂しいとか口に出すタイプに見えるか?
日吉は筋金入りのツンデレやからな、そういう事は口が裂けても言わへんと思うで

そこはお嬢ちゃんが察してやらんと」


『………。』



クスクスと笑う先輩から視線を逸らし黙り込む

赤髪の先輩は退屈になったのか、どこかへ行ってしまった










「お嬢ちゃんは、日吉が何を考えてるのか気にならへんの?」


『……そりゃあ…』


「そんな本で熱心に勉強しても、日吉の気持ちは分からへんよ

そういうんは本人に聞かなあかんで?」


『っ!!』




そう言うと、先輩は私の手元に積んである本の一冊を指差した


表紙は伏せておいたのに、背表紙を見られたのか






”相手の気持ちが分かる本”



図書室で偶然見つけたそれを読んでいたのに気付かれて、一気に顔に熱が集まった

















「忍足さん!」




控えめな声量だけど、鋭い声が響く




弾かれたようにそちらを見れば、日吉くんが怒ったような顔をしてメガネの先輩を睨み付けていた








『(……この人、忍足って言うんだ)』


「なんや日吉、そないに怒った顔して」


「……そいつに何の用ですか」





ギロリと忍足さんを睨み、ツカツカと私の横に来る




そう言えば、前にもこんな事があった

あの時は確か、鳳くんとここで話していた時だ









「何の用かって言われてもなぁ、ただ仲良う話してただけやで?」


「………。」


「そないに怖い顔せんでもええやん、男の嫉妬は醜いで」


「っ、そんなんじゃ!」




声を荒げる日吉くんに、忍足さんが口元で人差し指を立てて笑った

静かにしろ、という意味だろう









「っはは、オモロイもん見せてもろたわ

さて、お邪魔虫はここらで退散するで



またな黒田さん

あ、さっきの話、ちゃんと頭に入れとき」


『えっ、あ、はい』


「ほなさいなら」




カタンと静かに椅子から立ち上がり、忍足さんは最後に微笑んでから図書室を去っていった










『…嵐が去った……』


「………黒田」


『ん、何?』




忍足さんが去っていった方に向けていた視線を隣の日吉くんに戻す

だが彼は、何か言おうと口を開いたが、何も言わずに押し黙ってしまった








『………日吉くん?』


「………………あの人には、あんまり近寄るなよ

悪い人では無いんだが…なんか、怪しいというか」


『?

分かった
けど先輩だし、話すことはもう無いんじゃないかな』


「………そうだと良いんだがな」


『?』




はあ、とため息をつくと、日吉くんはそのまま隣の椅子に腰掛けた




近付いた距離に、どき、と胸が高鳴った











「日吉、寂しがってるで?」





ふと、忍足さんの声が頭にリフレインされた







日吉くんが寂しがってるなんて、彼に限ってそんな事ある訳ないのに








そうは思っても、なんとなく胸の中に違和感が残った











***






「………………。」




静寂を取り戻した図書室で、再び読書を始めた黒田


その横顔をちらりと盗み見て、気付かれないように小さくため息をついた












「………お前は本当に本が好きだな」





小さくつぶやいた声は、本に夢中な彼女には届いていなかった


隣に座っている、この距離なのに















『っ!わ、日吉く………?!』




気付いたら彼女の肩を掴んで自分の方を向かせ、唇を塞いでいた



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