宍戸さん

□距離感
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***




保健室で少し寝た後、宍戸にお礼を言っておこうと彼の教室に出向く

だがそこに彼の姿はなかった



『ジロちゃん、宍戸どこにいるか知ってる?』

「ん〜、テニスコートだと思う〜…」

『そっか、ありがとう』

「もう具合は良いの?」

『うん、宍戸のおかげで』



アイツのとこ行ってくるね、とジロちゃんのもとを後にしテニスコートに向かう


休み時間のためか、放課後ほど人は多くない

男子の方のテニスコートのギャラリーに行き、コートを見下ろすと、見慣れた帽子が目に入った


制服のまま、誰かとテニスをしている




長身の男の子、見慣れない顔だ。おそらく後輩だろう

それに宍戸は確か、二年生とダブルスを組んでいたはず。なら彼はダブルスのペアだろう






練習を邪魔するのも悪いし、一度校舎に戻ろうかと思った

だが、何となくその場にとどまって宍戸のテニスを見学した






部活でもないのにコートに来て、あんなに走り回り、全力でテニスラケットを振るい、そしてまたボールを追いかけて走る

その姿に目を惹かれたのだ






練習試合を兼ねているらしいそのゲームは、結局宍戸が勝った







『おーい、宍戸ー』



ひと段落ついたのか、コート脇のベンチに腰掛けた宍戸と長身の後輩くん

そこに行って声をかけると、私の登場が意外だったのか、目を見開いていた





「お前、寝てなくていいのかよ?!」

『十分寝ましたー、もう平気ですー』

「あぁ?!こっちは心配して言ってんだぞ!何だその返事は!」

「まっ、まぁまぁ宍戸さん!落ち着いて!」



いきり立つ宍戸を後輩くんが抑え込む

何となく二人役割というか、普段の感じが読み取れた気がした


熱くなりやすい宍戸をこの後輩くんがフォローしてる、と言ったところだろう





「…ったく…、で、何だよ」

『一応お礼を言っておこうと思って、あと謝罪も』

「……そーかよ」

「宍戸さん……」


後輩くんが苦笑いを浮かべて宍戸を見るが、宍戸はむすっとした顔のままだ

困ったようにこちらを見上げた後輩くんに、に、と笑いかけた








『こんにちは、初めましてかな?』

「あ、はい!宍戸さんとダブルスを組んでました、2年の鳳長太郎です!」

『3年の瀬戸雫です、よろしく
エキシビションマッチのミクスドで宍戸とペア組む羽目になった者です』

「あぁ?!」



ふっと口元を緩め、瀬戸が笑う

またドキ、と鼓動が大きくなった






「……で、なんで具合悪かったんだよ」

『うーん、寝不足、かな』

「寝ろ」

『善処するよ、それじゃあまた放課後に』



ひらひらと手を振り、校舎の方へ戻っていく瀬戸


エキシビションマッチの練習が始まってから、何かと口を聞く回数が多くなった事で親しくなったとは思う
だが何となく、一定の距離を置かれているような気もしている


知り合ってからまだ間もないからなのか、それとも他に理由でもあるのか


よく分からないが





「読めねーやつ」

「え?」

「瀬戸だよ。飄々としてて、何考えてるのか分かんねー

体調悪いのも隠してるし、本当よく分かんねー奴なんだよな」

「でも宍戸さん、瀬戸さんと仲が良いって聞きましたよ
向日さんとか跡部さんが言ってました」

「……仲は良い、方だとは思う

けどなんか…、何だろうな、違うんだよな……」




うーん、と考え込む宍戸に鳳は笑う

何だよ、と抗議すると、鳳はニコニコと笑ったまま口を開いた







「いや、なんか、宍戸さんが女の人のことで悩むのがちょっと意外で

宍戸さんは瀬戸さんと仲良くなりたいんですね」

「はっ?別に、そんなんじゃねーよ
ただペアになったからには勝ちてーし、なんだ、その」

「誤魔化さなくても良いですよ

多分、瀬戸さんは宍戸さんに遠慮してるんだと思いますよ?
だから、心配させるようなことは言わないんじゃないですか?」

「……遠慮、ねぇ…」



ボトルを取り出し、ドリンクを喉に流し込む

ふーん、と独り言のように繰り返しつぶや宍戸に、鳳は終始ニコニコとしていた


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