木手くん

□最初で最後の体育祭
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断りたいが、断りにくい

どう返そうかと困っていると、ふいに影がさした







「五十嵐さんは俺と一緒に救護係をやりますよ」


「え?」


『!』



その影は、席に戻ってきた木手くんだった



「え、そうなの?」

「えぇ、救護係はまだ男女ともに空いてますよね

そこに俺と五十嵐さんで入ります


問題ありませんよね?」

『え、あ、はい』

「そっか、じゃあ黒板に書いとくわ」

「お願いします」



木手くんがそう言うと、先ほどの彼が黒板に行き、「木手・五十嵐」と書き込んだ






「………言いたいことは言いなさいよ」

『!』

「君は少し抱え込みがちです

相手のためにと言葉を選びすぎて、言いたいことが言えないのでは本末転倒ですよ」

『………そう、だね』

「……。」




へらりと笑う五十嵐さんに、少しだけ苛立ちが募った

転校してきてからずっと隣の席だからこそ分かってきたことだが、彼女は自分の気持ちを押し込めることが多い



それは家族に対しても同じなのだろう

今もまだ、時折塀の上に座り込んでは、海を見つめることがあるようだ


事情を知ってる人はほとんどいないため、その愚痴を学校の人にも言えず、黙し殺すことが多い

俺にさえ、言ってはくれない







「………。」






ご家族の帰りが遅くなる日は、テニス部の活動が終わるまで学校に残り、俺と一緒に下校する

たまに他のテニス部員も交えて、みんなで一緒に帰ることがある


彼女の様子は楽しそうに見えるものの、どこかまだ、一線を引いてるように感じるのだ









***





「ほりゃ、一年はへの付き合いひなるはらひゃねーの?」



モゴモゴとパンを口いっぱいに頬張りながら、甲斐くんがそう言った




「………食べてからしゃべりなさいよ」

「ふぁい


………で、五十嵐がよそよそしいのは、一年だけの付き合いになるって分かってるからじゃねーの?」



メロンパンを食べ終えた甲斐くんは、もう一度そう言い直した

それに平古場くんが同意した



甲「だってよ、高三といえば受験だろ?自分のことでいっぱいいっぱいで、友達作りどころじゃないんどー」

平「まぁ、五十嵐の進路がどんなのか知らないけんど
元々ヤマトンチューだし、本土に戻るつもりだろーよ?」

木「………まぁ、一理ありますね」

甲「えーしろーは五十嵐が好きなんばー?」

木「はい?」


ふと思い立ったようにそう尋ねた甲斐は、隣にいた平古場に鳩尾を殴られる


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