宍戸さん
□有終の美
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「ウォンバイ!瀬戸雫!!」
「ウォンバイ!跡部景吾!!」
審判のコールに、ギャラリーから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる
歓声と拍手に応えるように、瀬戸がコートの中でラケットを高く掲げる
晴れ渡る青空のような笑顔を浮かべ、勝利を喜んでいた
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「さすが瀬戸さんやな、全国レベルの選手は伊達じゃない」
ギャラリーで隣に座っていた忍足が感心したようにそう感想を述べる中で、俺は当たり前だろと毒突いた
「アイツは相当な実力者だ、この学園でアイツに勝てる奴はいねーよ」
「なんや、惚気か?」
「何でだよ!毎日打ち合ってりゃ分かることだから言ってるだけでだな…」
「お、なんや女テニが集まってるで?
瀬戸さんを囲んどるな」
「え?」
忍足に言われ、コートにまた目を向ける
確かに、女子テニス部が彼女のもとに集まっていた
そして次いで聞こえてくる、悲鳴にも近い女子テニス部員の声
「…なんや、優勝した相手を前にしたリアクションやないな」
「瀬戸の奴何して……」
そこまで言ったところで、ある女子テニス部員の声が耳に届いた
「雫、氷帝に進学しないの?!」
その声に、テニス部の関係者がざわつくのが分かった
***
優勝が決まり、部員が祝福のために私のもとに駆け寄ってくる
同期や後輩からの祝福の言葉を受けながら笑いかけると、女子テニス部の元部長が私にこう言った
「高校に行っても雫がいてくれれば安心だわ」
そういう彼女に、胸がズキンと痛むのを感じた
言わなきゃ
これからも一緒にいれると信じてるみんなに
『みんな、あの、聞いてほしいんだけど…』
ぎゅ、と胸の前で手を握りしめ、顔を上げる
視界の隅に、ギャラリーでテニスコートを見下ろしている宍戸の姿が入った
『私は、氷帝の高等部には進まない
だからみんなの仲間としてテニスができるのは、今日が最後』
意を決してそう告げた私の耳に、部員たちの悲痛な声が聞こえてくる
なんで、どうして、と
その声の一人一人に目を向け、頭を下げた
『黙っててごめん、言いづらくて、伝えるのを今まで渋ってた
みんなの期待を裏切って、ごめんなさい』
頭を下げて謝罪の言葉を述べると、しん、と部員たちが静まる
困惑した雰囲気が、見なくても伝わってきた
その時、ざり、と砂を蹴る音がして、見慣れたテニスシューズが目に入った
『…………宍戸』
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