金田一

□花吐き病
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学校を出てしばらく歩くと、色とりどりの花で飾られた花屋がある

中からは花のいい香りとお菓子の甘い香りがする







『ただいま』


「おかえり薫、体調は大丈夫だった?学校もどうだった?」


『大丈夫、良い人がたくさんいて色々助かったよ




いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ』



この花屋は私の実家で、両親が経営してる

まだオープンしたばかりだが、口コミで段々と人気が出てきたのだ




ただの花屋なのに口コミが広がった理由は、花屋の中に喫茶店を併設しているから


花をモチーフにしたケーキやクッキー、またハーブティーなど、特徴のあるメニューが揃っている






店内にいたのは老夫婦で、この2人はもはや常連さんだ

2人の元に寄って話しかけると、おばあちゃんもおじいちゃんも、にこやかに話してくれた








「このお店はいい香りがするし、花が綺麗で見てて飽きないし、本当に良いねえ」


『ありがとうございます、そう言ってもらえると頑張ってお世話した甲斐があります』


「近所の人にも勧めといたよ、学校が始まったばかりで大変だろうけど、店の手伝いも頑張ってね

また来るから」


『はい!』




レジに向かう2人を追い越し、先にレジに立つ

そのまま私が会計をすると、「お駄賃」といって飴玉をくれた










『ありがとうございました!』



頭を下げてお見送りをすると、花屋側でお客さんの対応をしてた母が戻ってきた






「薫、あまり無理しないで部屋に戻ってなさい」

『………とりあえず着替えてくる
少し休んだらお店の手伝いするからね』

「………もう、無理しないでって言ったばかりでしょ

ありがとう」




ぽんぽんと頭を撫でる母に笑い返し、店の奥に向かう

途中にある厨房で父に声をかけると、元気な返事が聞こえてきた




『ただいま、父さん』


「おー!おかえり薫、いい男いたかー?」


『………父さん』



呆れてため息をつくと、がはは、と大らかな笑い声が響いた

その声はお店にも聞こえていたようで、中にいたご婦人がくすくすと笑っていた












***




このアットホームな感じの雰囲気が好きだと言ってくれる人が最近増えてきて、店の売り上げも上々だ

父方の祖父母の実家を改築して作った店の佇まいも、可愛らしいと女の子から人気を博している



ただ、私は店の前が花で飾られて可愛くて、少し入るのを戸惑うことがある

店以外に家に帰る入り口もあるのだが、店から帰った方がお客さんが入りやすいのを知ってるからそうしてるのだ










自室で制服を脱ぎ、着替えてお店のエプロンをつける

そのまま階下のお店に向かい、手伝いを始めた




私が中学生くらいの頃に両親が花屋を始め、私はよく手伝うようにしていた

花屋を始めた理由は、私の病気が誤魔化せるから

そして、私に花を好きになって欲しいから、という理由だ





花は好きだ、だが、私が吐く花は好きにはなれない




気持ち悪いのだ、私自身が










「薫、テーブルのお客様にコレ持って行って」


『はーい』



母さんにそう言われ、お店でもわりと人気のあるシュークリームと紅茶のセットを2つ分持っていく

テーブルにいたのは2人のご婦人で、話を聞く限り、近所に住んでる人らしい






『お待たせしました、桜のシュークリームと紅茶のセットでございます』


「ありがとう」

「ここのケーキとかは、全部季節の花を使ってるの?」


『はい、そうです
店内で販売してる花から作ってるものが多いです

その桜は塩漬けになっていまして、シュークリームの甘さを引き立ててくれますよ』


「へえ……、すごいわね」

「娘さんがしっかりしてると、お店も楽ですね」



1人のご婦人がそう母さんに向かって言うと、母さんも満面の笑みで「おかげさまで」と言った



褒められて嬉しくなり、ニコニコしていると、店の外に同じ高校の生徒がいるのが見えた






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