金田一

□青葉城西高校男子バレー部
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ある日のことだった


夜、自室でくつろいでいると両親に呼ばれ、何だと顔を出せば、真剣な顔である事を頼まれた





『………男の子の意見、を聞いてこいと』


「そう、女の子の評判は良いし売り上げも悪くないんだけど、圧倒的に男性のお客さんがいないの

その理由をちょっと探ってみてくれない?」

「この間来てた男の子たちがいただろう?
その人達とか、クラスメイトとか、色々

客層を増やしたいんだよ」

「それに、この間来てたあの、ピンク色っぽい髪の毛の男の子
アレから1回来てくれたの

その人にお礼を言っといて欲しいのよ」


『えー……、そんなのお店に来た時に言っておけば良かったじゃない…
先輩なんだよ?あの人…』



誰のことを言っているのかはすぐに分かった

バレー部で、シュークリームが好きらしいあの先輩のことだ

だがあの人のことはバレー部ってことしか知らなくて、校内で会った事はない

そんな人に、ほぼ初対面のような私がいきなりお礼を言ったら引かれるのではないか、そう思ったのだが、私は両親の頼みを断れない



数分後には、渋々首を縦に振るのだ













***




『ということで、ぶっちゃけうちのお店、入りにくいと思うよね?』


金「………えーっと…」

国「何その”入りにくい”が前提の質問」



翌日、学校で手始めに金田一くんと国見くんにアンケートを取ってみた

彼らは私の数少ない男の子の知り合いで、なおかつお店にも来てくれている
絶好のアンケート対象者なのだ



私の質問に言葉を濁す金田一くんと、「はっきり言っていいの?」と、感情が読みにくい顔で言ってくる国見くん
いいよ、と答えれば、一呼吸おいてから口を開いた







国「正直に言うと男は入りにくい

花屋だってのは分かってるけど、あんなに店の前に可愛い花が置いてあったら躊躇する
俺一人だったら絶対入れない」

金「ちょ、国見!」

『金田一くん大丈夫、私もたまに入りにくい時があるから』

金「えっ」

国「店の看板娘が何言ってんの」


金田一くんの驚いた顔と、国見くんの呆れた顔が同時に私に向けられる

彼らとはクラスでも割と話すし、席も近いので、ちょっとした軽口を言い合えるほどには仲良くなっていた







『たって、あんなにピンクとか赤とかの花が置いてあると入りにくいよ
私もそれが原因だと思うって言ったし

お店の前の花の配置とか、量とか色合いとか、そこら辺を変えれば男の人でも入れるようになるんじゃないかなって思うの


それに喫茶店側には甘さ控えめのお菓子とかコーヒーとかも置いてあるから、男の人にも来て欲しいんだよね

彼女へのプレゼント向け、みたいな商品もあるし

そういうのが無駄になるのがもったいない

もっと知ってほしいって思うんだ』







そう一気に言い終えてから、はっ、と我に帰った


思わず夢中で話してしまい、彼らのことを忘れていた




恐る恐る2人を見てみれば2人とも驚いた顔をしていて、それに私が驚いた






『……ごめんなさい、ベラベラしゃべっちゃって…
引いたよね…』

金「いや、木下って案外話すんだな、って思ってビックリした」

国「店のことそんなに考えてたのか、すごいな」

『そりゃあ、少しでも役に立てたら嬉しいし…親孝行したいし……』



語尾が小さくなり、視線も下がる

恥ずかしさと申し訳なさで軽くパニックを起こしていると、金田一くんが笑う声が聞こえた










金「いやでも、楽しそうに話すから聞いててこっちも楽しかったぜ


それに、お店のためにそこまで考えてるし、親孝行したいって思ってること自体が偉いよ

うん、やっぱすげぇよ木下」


『な、』



かあ、と顔に熱が集まる

金田一くんの言葉はド直球で、裏表が無いからこそ、真正面で受けると照れてしまうのだ






国「………金田一、木下が真っ赤になってる
そこら辺でやめてやれ」

金「えっ

あ?!いや!ごめん!困らせたか?!!」

『だだだ大丈夫です嬉しいですただ恥ずかしい』

国「お前ら落ち着けよ、あとうるさい」



国見くんは教科書をくるくると丸め、ボコ、と金田一くんを殴った

次の時間で使う歴史の資料集は、かなりの厚さと重量がある

なかなか痛かったらしいその攻撃に、金田一くんは怒っていた








国「で、俺たちの話は参考になった?」

『あ、うん!お陰様で

そうそう、コレ良かったら貰ってくれる?
ウチの店の割引券』

国「?
お、塩キャラメルシュークリームも割引効くのか、貰う」

金「悪いな、なんか」

『いいのいいの、母さんが持ってけってうるさかったし一杯あるし







…………あ!そうだ!
2人に頼みたいことがあるの!』

「「え?」」




突然机を叩いて立ち上がったせいで、クラス中の視線が集まった


ごめんなさい!と慌てて謝ってから席に座ると、国見くんに「お前結構元気キャラなんだな」と呆れられた


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