金田一

□距離と変化
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「30分休憩ー!」



「「「うす!!」」」





溝口コーチの声で部員たちが休憩に入る


各々が体育館内で休憩し始めたのを見計らい、予め用意しておいたドリンクを渡しに行った





全員にドリンクが回ったのを確認し、自分も休憩に入る


熱気のこもる体育館を抜け出し、水道に来た






水道の上に置いてあるジョウロに水を注ぎ、溢さないように気遣いながら花壇に向かう




今日は日差しが強く、土がかなり乾いている


こまめに水をやらないと枯れてしまうだろう










『……今日も暑いなぁ』












***




休憩に入り部員と談笑していると、国見がちょいちょいと俺の練習着の裾を引っ張った





金「どした国見」

国「あれ、外」

金「外?


………あ」





国見に言われて体育館の外に目をやると、木下が大きめのジョウロを持って歩いていた


何をするのかなんて一目瞭然だ






国見にドリンクを押し付け、外に向かった











国「…………ウチの園芸委員は熱心なことで」




やれやれ、と呆れる国見には、誰も気付かなかった












***




「木下!」


『!

金田一くん、どうかした?ドリンク無くなっちゃった?』


「違う、手伝う」


『えっ』





チャポン、とジョウロの中の水が揺れる

戸惑う私に構わず、金田一くんがジョウロを奪い、慣れた様子で水やりを始めた







『……って!待って待って!』

「何だよ?」

『何だよじゃないよ!
金田一くん今休憩でしょ?休まないと!』

「水やりはそこまで重労働じゃ無いんだし、平気平気」

『でも!』

「良いって、お前にばっかりやらせるのも嫌だし、俺も一応園芸委員だし」




な?と笑う金田一くんに言葉を返せず、ぐ、と黙り込む


何となく、私は彼のこの笑顔に弱いのだ












***



及「あらら〜?金田一と薫ちゃんが一緒に水やりしてる」

岩「あ?

……あ、本当だ、真面目だなー」

及「いやそれだけな訳無いでしょ、岩ちゃんバカ?」

岩「ころすぞ」



ゴス、とわき腹に見事なパンチを食らわせると、いつものようなやり取りが始まる

そんなものは日常茶飯事なため、その2人は放って花巻と松川は金田一達を観察していた










花「………木下の態度は普通だよな、2人とも笑ってるし」

松「金田一の事は特に意識してない、のか?」

及「薫ちゃんってなんか、ニコニコしてるけど必要以上に立ち入らせない雰囲気があるよね」

岩「お前は特に警戒されるタイプだよな」

「「あぁ分かる」」

及「マッキーもまっつんも酷くない?!」



ギャーギャー騒いでいると、国見が手洗いから戻ってきて近くを通りがかった


そこを松川が捕獲し、話の輪に混ぜる

いきなり首根っこを掴まれて驚いていた国見だが、三年生達の視線の先を見て察したのか「俺は詳しくは知りませんけど」と不服そうにこぼしていた







松「知らなくてもよ、まぁあの2人を一番近くで見てるのは国見だし、何か思うところはあるんじゃない?」

花「そうそう、部活以外の雰囲気とか、クラスでの様子とか、どんな感じ?」

国「どうって……、あんな感じですよ
金田一が話しかけて、木下が答える感じです


クラスメイトの大半は生暖かい目で見てますよ」

及「さすが金田一……。クラスメイトにもバレバレなのね……」

花「木下と金田一の話をした事はねえの?」

国「ありますよ

金田一の性格とかについてを」

及「薫ちゃんはなんて?」

国「……確か、誰にでも優しいし良い人だよね、とか言ってました」



ボソボソと話す国見の返答に、三年生達は「あー」と声を漏らした








及「……………何か、薫ちゃんは他人と一線引いてるね

必要以上は踏み込まず、踏み込ませずな感じ


金田一の事もその他大勢の一人としてしか見ないようにしてるっぽいし、自分のこともあまり話さないし




心の奥の、本質は見せてくれない」


国「………………。」





体育館の外で一緒にいる2人を見ながら、及川さんが真面目な顔で小さくつぶやいた



及川さんの人を見る目はズバ抜けて優れているから、きっとそうなんだろう


それに、俺もたまに思う時がある

「これ以上入ってくるな」と線引きをするような言動


それに金田一が気付いているのかは分からない、いや、多分気付いていない








木下の”心の奥の本質”



巧妙に隠されたそれを、誰かに見せることはあるのだろうか


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