金田一

□ジレンマ
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合宿も大詰めとなり、ついに最終日を迎えた


今日は合宿の総まとめと言うことで、他校を招いての練習試合が行われる



もちろん私も臨時マネージャーとして、体育館で慌ただしく走り回っている







体育館の外の水道でボトルの準備などをしていると、中から及川さんや岩泉さんの声、それに返事をする複数の声が聞こえてきた




レギュラー達のアップはそろそろ終わるだろう




実を言うと、バレー部の練習試合を見るのは初めてである


この間、ここに烏野高校が来て練習試合をしたらしいが、その時は試合があることすら知らなかった








だから、少し楽しみだった










「すんませーん、ちょっといいっすか」


『!

はい、何か?』




今日の試合の相手は、確か宮城県内の高校だ

だが試合数が少ないため、練習試合だからと気をぬくな、と溝口コーチが言っていたのを思い出す









「マネージャーの人っすか?」

『はい、臨時ですが』

「へえ……」




ジロジロと上から下まで目が動いているのがよく分かる


少し印象が悪い






「青城って確かマネージャーいなかったはずなんだけどなァ


て事はキミ、一年生?」

『そうです』

「ふーん、可愛いね

烏野のマネとは違うタイプの可愛い子ちゃんだ」

『………はぁ』

「ねね、連絡先教えてよ

今度一緒に遊びに行こうぜ」

『…………いえ、遠慮します』

「そんな事言わずにさぁ!ね?

あ、彼氏とかいる感じ?」」

『仕事中ですので、失礼します』

「ちょっと待ってよ〜」




ボトルの入ったカゴを持って、早々にその場を後にしようとした


だが腕を掴まれ、カゴが地面に落ちる

幸いにも、ボトルはカゴの外に飛び出なかった






「いいじゃん!彼氏いないんでしょ?
ならちょっと遊ぼうよ!」

『い、た…!

いやです、離してください!』

「そう言わずに!ね?

あ、連絡先教えてくれたら離してあげるから!」

『痛い…っ!』




ギリ、と腕を掴む力が強くなる





ハッキリと分かる男女の力の差に、ぞくりと恐怖心が身体を走った







嫌だ、怖い、離して、誰か




ドクドクと心臓が嫌な音を立てる

















「ウチのマネージャーに何か用っすか」


「『!』」






聞きなれた声、のはずだが、いつもより何倍も怒りを帯びた声だった


ギュッと固くつむっていた目を開け、恐る恐る顔を上げると、見慣れた背中が私の前に立っていた





腕の痛みは無くなっていた









『金田一く…「そちらさんの学校、集まって中でアップしてましたよ。早く行ったらどうです?」』


「………チッ、邪魔すんなよ

アップなんかしなくても良いんだよ俺は


いいからそこどけ、俺はそこのマネージャーさんと話してんだからよ」


「コイツが嫌がってるみたいなんで、退く訳にはいきません」


「んだと一年、でけえからって偉そうにすんじゃねーよ


テメエこそ良いのかよ、下っ端一年生がパシリの準備しないでこんなところにいて」


「俺はー…「ざーんねん、金田一は我が部の有能なレギュラーでーす!」

…!及川さん…」





ヒラヒラと手を振りながら現れた及川さんは、金田一くんの肩を軽くポンポンと叩き、絡んできた他校の選手に目を向けた








「ずいぶん余裕だね〜

アップもしないで他校のマネージャーをナンパして、挙げ句泣かせるなんて!

けど、女の子が痛がる事をするのは感心しないな〜」


「あぁ?」


「ま、そんな君に悲報なんだけど、彼女は俺たちの大事なマネちゃんなんでね

君みたいな奴には勿体ないんだよ」


「………チッ、どいつもこいつも邪魔しやがって…」


「邪魔するよー、可愛い後輩が困ってるんだから


ま、文句は色々聞いてあげてもいいけど、時間も無いしね

試合でたっぷり聞いてあげるから








覚悟しときなよ」


「っ!」


『(うわ……)』





及川さんの冷ややかな視線にぞくりとした

自分に向けられたものでは無いとは分かっているものの、この迫力は凄い



それに気圧されたのか、大きな舌打ちを残してその人は体育館へと戻っていった









『………すみません、助けていただいて』


及「別にいいよ

それにアイツ、薫ちゃんに絶対声かけてくると思ってたから」


金「え、そうなんですか?」


及「あんまり良い噂を聞かない奴でね、こういうのは結構常習犯らしいよ


ま、金田一も助けに来てたし、俺は余計だったかもね

じゃ、先に戻ってるから〜」




現れた時と同じように、またひらひらと手を振りながら及川さんも体育館へと向かう


入り口には岩泉さんが立っており、少し怖い顔で何かを話し合っていた




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