金田一

□秘密を知っても
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激しく咳き込んで、耐えきれずに花びらを吐いてしまった


金田一くんの目の前で






恐らく私の口から出てきたであろう花びらを見て、金田一くんが固まったのが容易に分かった









『金田一くんにだけは…!



金田一くんにだけは知られたくなかった……!!』




あなたにだけは知られたくなかった


好きなあなただから





この病気は花を吐く病

普通の人はその存在すら知らないであろう奇病

誰もが気味悪がる奇病




私の身体はおかしいのだ







今までも何人かにこの病気の事を知られてしまった


けど、その人たちよりも何倍も、金田一くんに知られてしまった事が本当に嫌だ





金田一くんは私を見てどう思うだろうか?

気持ち悪いと思うよね

何だコイツって思うよね













『お母、さ……!』


「あら、薫?
遅かっ……!?


ちょっと!どうしたの?!」


「どうした?


! 薫?!」


「お父さん!早く部屋に!」







思わず金田一くんを突き飛ばし、カバンを取って走った


家までの道のりを、人生で一番本気で走った




もう何も考えたくなかった


体調なんて気にしていられなかった





お店に雪崩れ込むように入ると、幸いにもお客さんはいなかった


私の帰宅に気付いたお母さんは、私の顔を見るなり駆け寄ってくる


すぐにお父さんも駆け寄ってきた








でも二人の顔をはっきり見る前に、意識を手放した














***





『………!』




ふ、と目を開けると、カーテン越しでも分かるくらい眩しい光が目に入った


昨日は何があったんだっけ、それをすぐ思い出せないくらい、私は疲弊していたらしい







『………!!

な、にこれ…』



のそりとベッドから起き上がり、部屋の中を見て言葉を失った



狭い部屋の床が見えないくらい、所狭しと花びらが落ちていた

これは全部、私が発作で吐いたものなのか


ベッドの上も花びらだらけになっていた








「薫?起きたの?」


『…お母さん……』


「入るわね」




ガチャ、と部屋の扉が開かれる

部屋の外の空気が入ってきた事で、室内の花びらがふわりと舞った


それを見たお母さんが目を見開く


無理もない、私だって今までにこんな激しい発作に襲われた事はないのだから








「……高校にはお休みしますって連絡しといたわ、ゆっくり休んでて」

『………私、昨日どうしたの?覚えてない』

「お店に入ってくるなりすぐ倒れたのよ、そのままベッドで寝かせて、今まで寝てたの



薫、何があったの?
こんなに激しい発作は初めてでしょ…

お母さんに教えて」

『………。』




お母さんの真っ直ぐな目が私を射抜く


あぁ、どうしよう


高校に入ってまだ数ヶ月、一学期も終わっていないのに、もう花吐き病の事が知られてしまったなんて
申し訳なさで視界がにじむ


それに気付いたのか、お母さんがベッド脇に座り、私を抱き締めた









「聞かなくても、何となく分かるけどね

薫、寝てる間に何度も「金田一くん」って言ってたわよ



………もしかして、病気の事を金田一くんに知られちゃったんじゃないの?」


『!!

ごめ、なさ…っ!私…っ』




そこまで言うと、また発作が襲ってきた

激しく咳き込む私の背中を、お母さんが優しくさすってくれる




金田一くんとは違った、小さくて柔らかい手のひらだ





私はその後、涙ながらに全てを話した



金田一くんに花を吐いてるところを見られてしまったこと、国見くんが私の事を怪しんでる事

及川さんのファンに嫌がらせされてる事も、ポロリと話してしまった





全てを聞いたお母さんは、優しく笑って私を抱き締めた


何も心配はいらないよ、と









「……薫、ひとつ聞かせて?



あなたにとって金田一くんは、信用できる人?

あなたの病気の事を黙っててくれる人?」


『……信用できるし、黙っててくれる…、多分』


「そう……

じゃあ金田一くんは、あなたの病気を知っても、あなたの側にいてくれると思う?」


『………。』





お母さんの静かな問いかけに、私は少し考えた


この病気を知って、私に近付いてくる人間なんて今までいなかった


だからきっと金田一くんも、同じだ








私が静かに首を横に振ると、お母さんは少し残念そうに笑った


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