金田一

□通じる気持ち
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『ゲホッ、えっ、は…!』



ゼェゼェと荒い息を整えようと、深呼吸をする

でも空気を吸うとまた吐き気が襲ってきて、枕に顔を埋めて花を吐き出した








ーーコンコン





『…!

だ、れ…』



「あの、金田一、です」



『?!』





バッと顔を上げる


何で、どうして金田一くんが来てるの

お母さんかお父さんが入れたの?




どうして



金田一くんは私の花吐き病の発作を見た



なのに、わざわざ私に会いに来たのか








『なん………っ、ゲホッ!ぐ、え』


「!

おい!木下?!」


『や、入らないで…!』


「何言ってんだよ!入るからな!」


『嫌!』


「!!」





木下らしくないほどの大きな声だった

でもここでノコノコ帰るわけにもいかない



ドアノブを掴み、思い切り扉を開けた










「!!?」




扉を開けて部屋のなかを見て、一瞬言葉を失った


あたり一面に散らばる花びらの数々

色とりどりの花びらに囲まれるその真ん中で、木下はベッドにうずくまっていた








「木下!」


『来ないでよ…!』


「ちょっ…!」






ベッドでうずくまる木下に手を伸ばすと、バシン、と力一杯叩かれた

思わず手を引っ込めるが、彼女はまた激しく咳き込む









『何で来たの…?!

私の発作見たでしょ?!気持ち悪いでしょ?!


なのに来るなんて…!

おかしいんじゃないの…?!』


「おかしいって…、放っとけなかったから来たんだよ」


『何で!私なんか放っておいてよ…!!』


「好きだから、放っておけなかった」


『は……?!』








俺の発言に木下が顔を上げた


その拍子にまたはらりと花びらが舞い落ちる









「木下の事が好きだから、放っておけなくて来た」


『………金田一くん、自分で何言ってるのか分かってるの…?』


「分かってる」


『………。』





木下が困惑した顔をする


その顔が面白くて思わず笑うと、また木下は困ったような顔をした







『……私の病気を知ったから?

気を遣ってるの?』


「……お前、俺が気を遣ってこんな事を言うような奴だと思ってんのか?」


『いや、思ってない、けど…』


「お前の病気の事はさっきお前のお母さんに聞いた

それを聞いても、俺はお前が好きだから


つうか入学してすぐぐらいからずっと好きだったし、なんかもう今さら何言われても変わんねーから」


『………バカじゃないの…』


「え、ちょ、泣いてんのかよ!
てか体調悪いよな、悪いこんな話して

おばさん呼んでくるか?」





木下がボロボロと涙を流し始めるから、慌てて木下のお母さんを呼んでこようと立ち上がる

そのまま部屋を出ようとしたが、後ろから制服の裾を掴まれた








「木下?」



『……私も、同じです』



「!」



『…っ、ごめ、嬉しくて……』





ボロボロと涙を流す木下に、慌てて部活で使っていないタオルを差し出す

控えめにそれを受け取ると、彼女はふわりと笑った










***





「好きだから、放っておけなかった」





幻聴かと思った


まさか、病気の事を知った上でそんな事を言われると思わなかったから




でも金田一くんは、私の花吐き病の事をお母さんに聞いた上で会いに来て、そして気持ちを言ってくれた



今までそんな人はいなかった


みんな私のもとから離れていった


今回もそうだと思ってた





でも金田一くんは、私のもとに来てくれた




初めて好きになった人が金田一くんで良かったと、宮城に来て最初に金田一くんと友達になれて良かったと、心の底から思ったら涙が出てきた








『私も好き…』


「!」


『ありがとう金田一くん、本当に嬉しい…』




気持ちが通じた事が
気持ちが同じだった事が
私の病気を気持ち悪いと思わないでくれた事が
それが何よりも嬉しくて、次から次へと涙があふれた









発作はいつの間にか、おさまっていた



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