金田一

□初デート
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休みの日という事もあって、水族館はかなり混んでいた


チケットを交換し、行こうと声をかけると、木下は嬉しそうに笑った








「どこから見る?」

『うーん…』




パンフを広げて水族館の案内を見る

特に決まった順路がある訳ではないらしい








『最初から順番に見ていこ!』

「そうすっか、じゃあ行こうぜ」

『うん!』





いつもより元気だな、なんて見ていたら、どうかしたのかと首を傾げた

だから今思った事をそのまま言うと、今度は恥ずかしそうにはにかんだ







『水族館なんて久しぶりだから、ちょっとテンション上がってる』

「俺も久しぶりだから、結構楽しみ」

『なら良かった、私だけ楽しんでたら悪いし』

「んな事ねーよ、あ、あっち空いてる
行ってみようぜ」

『うん』



ニコリと笑う木下と一緒に水族館の中に入る

一気に薄暗くなり、あたりは青色に包まれた











***





水槽の中を見上げ、感嘆の声を漏らす木下

それにならって水槽に目をやると、大小様々な魚たちが水槽の中で悠々と泳いでいた






『わー…、凄い、綺麗…』


「……そうだな」





単純な感想しか出てこない、だが水槽の中の景色は圧巻だった

地元にこんな水族館があったなんて、何で知らなかったのか、及川さんに感謝だ



水槽に目を奪われている木下の、空いてる左手が目に入る

それを見て、また先輩方の話が頭をよぎった






静かだけど、人のざわめきで溢れる水族館の中で、どこからか小さな泣き声が聞こえてきた






「………?」


『金田一くん?』


「今…、何か聞こえ…」


『あ!』


「?

木下?」




どこかを見て駆け寄る木下、立ち止まるとその場にしゃがんだ


何だと同じとこに行って覗き込むと、そこには小さな女の子がいた










「………迷子?」


『そうみたい

君、お母さんやお父さんはどうしたの?』


「…………分からない」


『迷子か、なるほど』






今にも泣きそうな声でそう返事をする女の子は、金田一くんを見て顔を強張らせた


背が高い彼を見て怖がってしまったのだろう





『あ、そうだ金田一くん、肩車できる?』

「え?この子を?
出来るけど…」

『お願いしてもいい?


ねぇ、お姉ちゃん達と一緒にお母さん達を探そうか?』

「……いいの?」

『うん
このお兄ちゃんね、とっても優しいんだよ
お兄ちゃんが肩車してくれるから、高いところからお母さん達を探そう!』

「! うん!」

「じゃあ肩車してやるよ」



金田一くんがにこりと笑いかけると、先ほどまでの緊張が薄れたのか、女の子はニッコリと笑った

そのまま金田一くんの肩に乗っかり、女の子が一生懸命に首を動かす

私と金田一くんも女の子からご両親の話を聞き、その特徴に合う人を探した









「お母さん!お父さん!」





10分程度館内を歩いていると、女の子がある方向を指差して叫んだ

それに気付いた30代くらいの男女が私たちのもとに駆け寄る

どうやらご両親で間違い無いようだ





『よかった、見つかって』

金「そうだな」

「本当にありがとうございます!何とお礼を言ったら良いか…!」

「一緒に探してくれてありがとうございました!

ほら、お姉ちゃん達に挨拶してきなさい」

「うん!」



深々と頭をさげるご両親に困っていると、女の子が木下のもとに歩み寄ってきた

それに合わせてしゃがむ木下

女の子は嬉しそうに満開の笑顔でお礼を言った





「お兄ちゃんも!ありがとう!」

「どういたしまして、もう迷子になるなよ?」

「うん!」



ぽんぽん、と頭を軽く撫でてあげると、また女の子は笑った

だが、ふと何かに気付いたのか、パタパタと木下のもとに戻っていった





『? どうしたの?』

「お姉ちゃん、髪にお花が付いてたよ!」

『お花?


………あ』



女の子が木下の髪に触れ、何かを取る

それは淡いピンク色の花びらだった






「!

っおい、大丈夫か?!
どっか体調悪いのか?!」






花びらは花吐き病のせいなのか、それを疑った俺は慌てて木下の肩に手を置いて尋ねる

俺の勢いに驚いたのか、彼女は少し目を見開いたが、やがてふわりと優しく笑った


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