金田一

□金田一の悪口を言われる
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長編の番外編
恋人になった後のお話です
視点がバラバラです














「金田一がレギュラーなのはただ身長があるからってだけでしょ?」





知らない男の声が聞こえてきたのは、放課後のごみ捨て場の近く

部活前の掃除の時間、そして終了間際のこの時間は、部活に向かう生徒と掃除の片付けをする生徒とで校内が騒がしくなる





たまたまじゃんけんで負けてゴミ出し当番になった俺は、三年の階からゴミを両手に抱えて運んでいた

途中クソ及川と遭遇し、奴も同じくじゃんけんに負けてゴミ出しになったらしく、二人でごみ捨て場に向かっていたところだったのだ









「バレーはでかい方が有利なんだろ?
だから金田一はレギュラーなだけで、別にすごくも何でもないだろ、あんな奴」



はっ、とバカにしたように笑うその男に見覚えはなかった

だが指定靴のラインを見るに、一年生



なんだこのクソガキ、金田一の何を知ってるんだ

もともと沸点の低い俺はすぐに飛び出そうとしたが、それは及川に止められた

目で「何でだよ」と抗議をすると、及川は顎で男の影を示した







「………!」



金田一の悪口を言う男の影になっていて分からなかったが、そこには木下がいた

だがここからでは表情を伺えない






岩「おい」

及「彼氏の文句を言われて何も言い返さないのも、俺は問題だと思う
だから、もう少し見てよう」

岩「………覗き見かよ…、気が引けんな」

及「可愛い後輩カップルのためだよ、岩ちゃん」




しゃあねぇな、と隣でつぶやく岩ちゃんに小さく笑い、俺と岩ちゃんは校舎の影に隠れた

薫ちゃんと話してる男は誰だろう、彼の手にはゴミ袋がある、そして隣には金田一の彼女、会話の内容は金田一のこと

単純に考えて、クラスメイトだろうか




ちらりと隣でうつむく薫ちゃんを見る
彼女の横顔はよく見えなかった


そして男の口はさらによく動いた









「その点、俺は結果出してるよ

この前の新人戦も得点率はチーム1だったし、優秀選手にも選ばれた
今までは先輩たちがいて出来なかったけど、二年生になれば俺もレギュラーになって全国目指す」




優秀選手の一年生については少し記憶がある。確かこの前の朝礼でバスケ部が表彰されていたはずだ

それがあの男か








「なぁ、何で金田一なの?
確かにアイツだって強豪校で一年生レギュラーになってるし、凄いと思う
けど俺だって負けてねぇ

結果だって残してる







……だからもう一回考えてくれよ

この前の返事」






隣で「マジかよ」と小さくつぶやく声が聞こえてきた

ここまで聞けば、さすがの岩ちゃんも気付いただろう







あのバスケ部の男は薫ちゃんが好きらしい

しかも、薫ちゃんが金田一と付き合っていることを知った上で、のようだ



ある意味いい度胸だと思った

薫ちゃんの金田一への思いは誰が見ても明らかだし、それに応える金田一も同じだ
お似合いカップルとしてクラス公認だと国見ちゃんから聞いていたが、全員が全員ではないらしい




あの子はどうするのかな、と様子を伺っていると、やっと薫ちゃんが顔を上げた











『………前にも言ったけど、返事は変わらないよ』

「……アイツより俺のがスポーツ選手として優秀だ、種目は違うけど」

『確かにそうかも知れないけど……




竹田くん、ひとつ勘違いしてる』

「え?」



真剣な顔で、竹田、と呼ばれた男を見上げる薫ちゃん


勘違い?
俺も岩ちゃんも分からなかったので、彼女の次の言葉を待った










『私は、たとえ三年間補欠だったとしても、金田一くんを好きになってる』

「!」

『金田一くんがバレーをやってなくても、それは変わらないよ





私は”スポーツが出来るから”金田一くんを好きになったんじゃない

”金田一くんだから”、好きになったの』

「………なんであんな木偶の坊を」







キッパリとフラれたのが癇に障ったのか、もはやただの八つ当たりだ




金田一の悪口を止めないその男を見て、薫ちゃんは眉を釣り上げた

そして隣の岩ちゃんも、物凄い形相になっている


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