宍戸さん
□新しい風
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瀬戸が立海に合格したという話は、どこからともなく耳に入って来た
しかもテニスの特待生だという
帽子を返しに来た時、俺が試験はどうだったと聞いたら笑顔で「ばっちし、帽子のおかげ」と笑っていたので大丈夫だろうとは思っていた
『宍戸!』
購買部で買った紙パックのジュースを飲みながら廊下を歩いていると、後ろからパタパタと軽やかな足音が聞こえて来た
それに振り返れば瀬戸がすぐ目の前にいて、笑顔を浮かべていた
晴れ渡るようなその笑顔はミクスドで優勝した時と同じ笑顔で、ドキ、と胸が高鳴った
『立海合格した!しかも特待生!』
ば、と俺に何かの書類を見せてきて、なんだとそれをよく見れば、確かに
”テニスの特待生としての入学を認める”
という記述の下に、彼女の名前が並んでいた
「おー、おめでとう!俺の帽子のおかげだな」
『っはは、何それ、私の実力だから!
でも、帽子効果もあったかもね』
初対面の時は、笑顔どころか怒ったような顔の方がよく見ていたからか、彼女が笑うと自然と目が向く
俺の前でもよく笑うようになったな、なんて
よく考えれば、瀬戸と出会ったのは一ヶ月前だ
そこから毎日のように一緒に練習し、しょっちゅう喧嘩をした
たった一ヶ月しか経っていないのに、こんな風に話すくらい親しくなったのかと改めて感じた
『宍戸?』
こうして彼女と話せるのも、あと数週間なのだと気付いてしまい、胸が軋む音がした
***
立海に受かったと分かって、すぐに宍戸の顔が思い浮かんだ
「良かったな、四月からは同じ学校の同級生になるわけだ」
『うん、ありがと、蓮二に勉強見てもらったおかげだよ』
「そんな事はない、お前は元から賢いし、そんなに心配していなかったさ」
並んで歩きながら、隣でそう言う蓮二に笑いかける
合格祝いだと騒ぐ両家の親に家を追い出され、準備ができるまで適当に時間をつぶしてこいと言われたのだ
そう言われた私たちは当たり前のようにラケットバッグを手に取って外に出た
「エキシビジョンマッチはシングルスもミクスドも優勝したんだろう?
有終の美を飾れた事だし、エキシビジョンマッチに参加して良かったんじゃないのか?」
『うん、良かったよ、テニスの練習はがっつり出来たからね
それに、ミクスドも案外楽しかった』
ふ、とミクスドの練習の日々を思い出して笑っていると、蓮二も同じように笑う
そして核心をつくように、けれど何気ない会話のように、口を開いたのだ
「それで、宍戸に想いを告げるのか?」
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