木手くん

□出没スポット
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今さらだが、私が沖縄に引っ越してきた経緯を説明しよう

私は生まれた時から神奈川に住んでおり、中学・高校は立海の附属校に通っていた

母方のいとこであるブン太に関しては生まれた時からずっと一緒だ



そんな私はもちろん高校卒業まで立海にいると思っていたし、大学も立海に進もうと思っていた
だが、高校二年生の三学期、父方の祖父が病に倒れた

年老いた祖母だけでは面倒を見れないという事もあり、両親は沖縄移住を決意した

幸い、父が働いている会社には沖縄部署があり、そこに転勤するという形になった




正直、私は来たくなかった


受験を控えた三年生で突然の転校

そして順当に行けば内部推薦で立海大への進学も射程内であったのに、それを棒に振ってしまったからだ


そしてもちろん、中等部からの付き合いである友人達と別れたくなかった




けどそれを望んだところで、現実問題私だけが残っても何もできない

丸井家は私を一年間下宿させても良いと申し出てくれたが、親はそれを拒否した
私一人を残すことを嫌がったのだ

まぁ当然と言えば当然だろう



そんな訳で、私は大人しく両親とともに沖縄に来たのだ



沖縄は幼い頃に何度か来たことがある、祖父母に会いに

だがそれだけで、知り合いもいなければ周りに何があるのかも分からない


今さらそんなストレスに囲まれるとは思っておらず、また、本土からの転入生という事で好奇の目にさらされるストレスも相まって、私は知らず知らずの内にかなり精神的に疲弊していた









「元気がないようですね」




そんな私に声をかけてきたのは、隣の席の木手くんだ


驚いて隣を向くと、彼は視線は向けず、授業の準備をしていた





『……そうかな?普通だと思うけど』

「顔色が優れないようですが」

『……うーん、そうかな』

「保健室に行かれたらどうです?」

『大丈夫だよ』



力無い笑顔を浮かべる五十嵐さんに、それ以上言えずに「そうですか」と返す

何となく、これ以上かまうなと言われているような気がしたのだ









『(………顔色、悪いのかな)』



ぺたぺたと自分の顔を触っていると、隣で木手くんが笑った



「それで顔色が分かるんですか?」

『……変なとこ見られた埋まりたい』

「君も面白いですね」



くく、と小さく笑い続ける木手くんに、顔がじわじわと熱くなる

恥ずかしい











ぴこん



『!』



木手くんと話していると、携帯が着信を告げる

何だろうと確認すると、それは父からだった








《おじいちゃんの容態が悪化したらしい、おばあちゃんもお母さんも俺も病院に行く
帰りは遅くなるだろうから、夕飯は一人で済ませておいてくれ》





『…………。』




ずしりと胸が重くなる

またか、と携帯の液晶を伏せ、窓の外に目を向けた




おじいちゃんが心配じゃない訳ではない、おじいちゃんのことは大好きだし、お見舞いにも行く

けどこういう時、私が学校にいる間に何かがあると、私は決まって残される



沖縄に来てからまだ一ヶ月も経っていない



まだ慣れていない土地で夜遅くまで一人で取り残されるのは、正直怖いし、不安で押し潰されそうになる










夜、一人で家にいるのは、何よりも嫌いな時間だ










***





その日の学校は、父からのメールを見てからずっと気分が沈んでいた

また、本当に顔色が悪いらしく、クラスメイトや先生からも何度か心配された








「五十嵐さん、これあげます」

『?

……メロンパン、なんで?』

「甲斐くんと平古場くんからです

君の顔色が悪いからこれを食わせろ、と
メロンパンにそんな効果はないと思いますが、一応渡します」

『………ありがとう

これから部活だよね、二人にお礼言っといて』

「分かりました


………。」

『?

木手くん?』



メロンパンを受け取り、木手くんを見上げる

すると彼はもの言いたげな顔で私を見下ろしていた











「顔色、やっぱり悪いですよ

早く帰って寝た方がいい」


『………善処する』


「?」





困ったように笑う五十嵐さんを不思議に思いながらも、部活に行くために挨拶だけして教室を出た



今日は様子が変だ、特に午後から

放課後になるにつれて、彼女はどんどん顔色が悪くなっているような気もする



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