木手くん

□最初で最後の体育祭
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『体育祭……』



配られたプリントの見出しをぼそっと呟けば、隣の席から「そうですね」と返事が返ってきた



「うちの高校は夏休みに入る前に体育祭があるんです」

『……私も前の高校だとこの時期だったなぁ

………………体育祭かぁ』

「スポーツは苦手ですか?」

『ん?

ううん、そんな事はないけど…』




微妙な笑みを浮かべる彼女に、なんとなく彼女の心情を察する


クラス内ではまだまだ新参者で、全員と打ち解けた訳ではなく、まだ若干孤立している


そんな中で行われる体育祭というイベントは、楽しみなものではないのだろう

この後は体育祭の練習や準備など、他学年と関わることも増えてくる

そうすると彼女はまた、視線を集めてしまう


五十嵐さんが浮かない顔をしてる理由は、そのあたりにあるのだろうと推測した





「………平古場くんは救護係で、甲斐くんは確か会場整備係だったと思います」

『え?』

「………そこらへんの係になれば、いくぶんか楽だと思いますよ」

『!』




ぱ、と隣の木手くんを見る

こちらを向いてはくれなかったが、彼なりの気遣いなのだろう


他のクラスや学年と関わる事に憂鬱さを抱いていた私のために、数少ない顔見知りであるテニス部の人が所属する係を教えてくれたのだ





『……ありがとう、木手くん』

「………何もしてませんよ
独り言です」

『ずいぶん大きな独り言だね』

「………。」



クス、と笑う声がして隣を見る

すると、優しく笑う五十嵐さんが自分を見ていた



どき、と胸が高鳴るのが分かってしまった








***






その後、クラス内の体育祭の係決めが始まった


基本的に男女ペアで係に属するらしいが、すでに委員会に参加してる生徒は係とは別に委員会ごとに仕事があるらしい
なので係になるのは委員会に属していない生徒だけだそうだ




『(平古場くんが救護係で甲斐くんが会場整備…
どっちも空いてるなぁ)』


「五十嵐さんは何やるか決めたの?」



ガヤガヤと賑やかな教室で、黒板に書き出された係の割り振りを眺めていると、ふいに声をかけられる

その声に顔を上げれば、あまり話したことがない男の子がいた




『あ、ごめんなさい、まだ悩んでて』


「そっか、あのさ、良かったら俺と同じ係にならない?
当日の実況とか司会やる係なんだけど」


『え……』



その仕事は先ほど説明されていたが、体育祭の花形とも言える係だ

実況なんかはたくさんしゃべる必要があるし、何より目立つ

正直やりたくは無かった


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