木手くん

□借りられた理由
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受験勉強の合間や体育の授業で体育祭の練習を行い、気づけば当日になっていた





「お、来たなー五十嵐」

『ごめんね遅れて』



賑やかなグラウンドでは、全学年、全教員が集まって、盛大な体育祭が行われている

グラウンドで白熱した男子生徒による騎馬戦が行われている中、私は救護テントに入って行った

そこには同じ時間に係の仕事がある平古場くんが先にいた




『平古場くんは何に出るの?』

「借り物競争さー」



そうなんだ、と返事をしようとした時に、今行われている騎馬戦で怪我人が出たという連絡が入った
怪我と言っても擦り傷程度だが


一年生だというその男の子に簡単な手当てをしていると、近くにいた平古場くんが感心したように言う



「やー、手当て慣れてるんばー」

『元々の学校でよく運動部のマネージャーみたいな事してたから』

「ほーん、上手やっし」




に、と平古場くんが笑うと、彼の鮮やかな髪が揺れる

綺麗だなぁ、と見ていると、手当てをしていた男の子がお礼を言って出て行った






『やっぱ騎馬戦となると怪我が増えるね』

「……なー五十嵐」

『ん?』

「えーしろーの事、どう思ってる?」

『え?』





パァン、と騎馬戦の次の試合が始まるピストルの音が響く

そこから歓声が上がり、救護テントまでその歓声が聞こえてくる


だが平古場くんのその一言は、ざわめきにかき消される事なく、はっきりと私の耳に届いた







『………どういう意味かな?』

「そのまんまの意味さー

永四郎の事をどう思ってるのか、って聞いてるんどー」

『……木手くんは、とても親切だよね

色々とたくさん助けられてる』

「その親切の意味は考えたことないんばー?」

『!』




その質問の意図に気が付かないほど、鈍くはない





『………さぁ?』



だが私は、その意図に気が付くつもりはない


笑顔でそう言葉を返すと、平古場くんは少し考える素振りを見せて、「ならいいや」とグラウンドに視線を戻した








***



数十分後、平古場くんはおもむろに立ち上がり、軽くストレッチを始めた



「さーて、わんはそろそろ行くさー」

『借り物競争、頑張ってね』

「ほどほどにやるさー
永四郎もいるし、負けたくないし」

『あはは

ここで見てるね、頑張って』

「なー五十嵐、知ってるかー?」

『?』




訛りの強い平古場くんは、語尾を伸ばすことが多い

ゆるい話し方は、今では彼のトレードマークのようなものだと思っている


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