木手くん
□大丈夫
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[よっ、沖縄生活はどーだ?]
学校帰り、いつもと同じ海沿いの道で、塀の上に登って座っていた
そんな時にかかってきた電話
『もう慣れてきて、結構楽しくやってるよ
ブン太達は?変わりない?』
[おう、相変わらず真田がうるせーな]
[何だと]
[まぁまぁ真田副部長落ち着いて!!
せっかく千秋先輩と電話してるんですから!!]
『はは、変わりないようで安心した』
ザザーン、と波のさざめきが聞こえる
夕日がそろそろ海に沈む時間だ
『全国大会、あと少しでしょ?
どう?みんなの調子は』
[絶好調ッスよ!]
[当たり前だろぃ]
『さすが』
電話の向こうはざわざわと騒がしい
きっと部室にレギュラーメンバーでたむろしているのだろう
[あ、わり、俺用事あるから帰るわ]
[俺も先に失礼しよう]
[あ、じゃあ俺も!]
ジャッカル、柳、赤也が私に別れを告げて、部室を出て行く
それを皮切りに、幸村や真田も続々と帰っていき、最後はブン太だけになった
ブン太は鍵当番らしく、最後まで残っていたようだ
[……さて、みんな帰ったな]
『?』
電話の向こうが静かになると、ブン太の声がよく聞こえる
この時を待っていた、とばかりの物言いに、どうかしたのかと尋ねる
[いや、他の奴らがいるとお前、気ぃ使って明るく振る舞うだろぃ?]
『え…』
[大丈夫か?]
優しく問いかけるその声に、ふっと心が軽くなる
そうだった、このいとこは、幼馴染は、こういう男だった
『……ブン太は変わらないね』
[何が?]
『お兄ちゃんみたい』
[伊達に三兄弟の長男してねーだろぃ?
一人妹が増えるくらい、どうってことねーよ]
『頼もしいなぁ』
クスクス笑っていると、もう一度ブン太が大丈夫か、と尋ねてくる
その優しさが心を温かくする
『大丈夫、クラスの人も良い人だし、慣れてきたし
本当に平気よ』
[………なら良いけどよ
辛かったら頼れよ、電話の相手くらいしてやるからさ]
『うん、ありがとう』
電話をしてる間に太陽は海へと沈んでいき、あたりは暗くなっていた
街灯がそろそろつくかな、と考えていると、ブン太の声とは違う声がした
「五十嵐さん?」
『!』
その声は電話からではなく、私のすぐそばからだった
『木手くん』
「………あなたはまたこんな所で…
今何時だと思っているんですか、もう暗くなっているのに」
『ごめんごめん
じゃあねブン太、また電話する』
[えっ?
あ、おいちょっと待て、今"木手"って____…]
ブン太のその声は波の音にかき消される
千秋はそのまま通話を切った
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