木手くん

□言うだけ
1ページ/4ページ






五十嵐さんのお爺さんが亡くなられてから数日間、彼女は学校を休んだ

ご家族に不幸が、と担任の先生はぼかして連絡していた



彼女はお爺さんの事が大好きだった

よく話していたし、学校帰りにお見舞いに行くことも多かった


その心の傷は大きいのだろう



現に彼女は病院で、ご家族がロビーに迎えに来るまで、ずっと泣き続けていた






彼女が沖縄に来たのは、入院していたお爺さんのためだ

そのお爺さんが亡くなられた今、彼女は大丈夫だろうか









***





五十嵐さんが学校に来なくなってから一週間が経過した


かと言って俺の学校生活が変わることはなく、いつものように部活を終え、いつもと同じ道を歩いていた










『木手くん』








彼女がよく座っている塀の上をぼんやり見上げていると、背中側から声がした

くるりと振り返ると、白いワンピースに身を包んだ五十嵐さんが立っていた





『少し久しぶりだね』

「そうですね


………思ったより元気そうで良かった」

『!

うん、自分でも思ったより元気だよ

木手くんのおかげ』

「俺の?」




そうだよ、と笑いながら、彼女は慣れた足取りで塀の上に登る

そしていつもの定位置につくと、ストンと座った



穏やかな風が彼女の髪をさらい、沈みかけた夕日が彼女を照らす


綺麗だった







『木手くんが一緒にいてくれたから、大丈夫だった

もし一人でロビーにいたら、悲しさで押しつぶされてたと思う


だから、木手くんにお礼を言いに来た』

「そのために、ここに?」

『うん
この時間にここにいれば、木手くんに会えると思って』





私が海を見ながら話していると、木手くんも塀に登り、私の隣に座った


少し手を動かせば、彼に触れられそうな距離だ








『ありがとう木手くん

あの時、私と一緒にいてくれて』




柔らかく微笑むその笑顔は、彼女の心からの笑顔だった

愛想笑いや作り笑いとは違う、本当の笑顔だ





「……俺は何もしてませんよ」

『嘘

沖縄に来てからたくさん助けてもらったよ、私



たまたま私が木手くんの隣の席になったってだけなのに、こんなにたくさん助けてくれて…

木手くんは優しいね』




にこりと笑ってそう声をかけると、彼は海を見つめたまま、少しの間黙り込む


だがすぐに、私を見た













「ただの隣の席の人に、俺はこんなに優しくしませんよ」

『え?』

「君だから、優しくしているんです」

『………えっ?』





木手くんが話し終えると、ザザーン…、と、ひときわ波の音が大きくなった


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ